軋んだ想い
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寒気は、結局一日中治まることはなかった。
クロムウェルは、供をさせていた内の一人、羽帽子の貴族に話しかけた。
「子爵、きみは竜騎兵隊の隊長として、『レキシントン』に乗り組みたまえ」
羽帽子の下、貴族の冷たい双眸が光る。
「目付け、というわけですか?」
首を振って、子爵の憶測を否定する。
「あの男は、決して裏切りはしない。
頑固であり、融通は利かない。
実に軍人らしい男だが、だからこそ貴族の誇りも自らの手で握りつぶすことができる。
信用はできるのだよ。
これは単に、その若さで魔法衛士隊の隊長にまで登り詰めていた、きみの能力を買っているだけだ。
――竜に乗ったことは?」
「ありませぬ。しかし、わたしに乗りこなせぬ幻獣は、トリステインには存在しないと自負しております」
だろうな、と口元に苦笑を湛え、子爵に振り向く。
「子爵、きみは何故余に付き従う?」
「わたしの忠誠をお疑いになりますか?」
「そうではない。
だがきみは、あれだけの功績をあげておきながら、何一つ余に要求しようとはしなかった」
それが不思議でな、と見やる先。
「わたしは、閣下がわたしに見せてくださるものを、見たいだけです」
にっこりと笑う子爵は、そう答えた。
「『聖域』か」
「左様です。
わたしが探すものは、そこにあると思います故」
「信仰か? 欲が無いのだな」
視線を進行方向に戻し、これからの予定を思い浮かべる。
空軍将校への『釘打ち』はここで最後だ。
あとは、子爵を竜騎兵隊に顔通しするだけだな。
ここから宿舎までの距離を考えると、少し急いだ方がいいかもしれない。
そう思ってもう一度振り返ると、子爵はいつも首に下げている古びた銀細工のロケットを開いていた。
見れば子爵は、なにやら熱っぽい視線をその開かれたロケットにそそいでいる。
珍しいことだ。
「それは?」
子爵はその視線をそらすことなく、口元の笑みを深めて呟いた。
「わたしの、欲望の象徴ですよ。閣下」
とっぷりと日の暮れたトリステイン魔法学院、その寮塔の女子寮側の階段にて。
「なあ、キュルケ?」
「なによ、ギーシュ」
何やら不満そうなギーシュと、頭の中で段取りの最後の確認をしているキュルケが、タバサの部屋を目指して足を働かせていた。
「昼間といい、今といい、なぜ、このぼくが
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