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fate/vacant zero
複雑明快な連逢事情
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 才人がこの世界ハルケギニアに召喚された日から、大凡で四週間。

 才人がタバサに文字を教わり始めて、かれこれ一週間を数える黄金ソエルの日。


 平等マンの月も終わりに近づき、陽光は春の陽気から夏の熱気へと衣替えを初めつつある昨今だが、トリステイン魔法学院に衣替えと言う風習はない。

 トリステインの夏は才人の国の夏とは違い、湿度が高くなりすぎないためだ。

 時たま訪れる浮遊大陸エタンセル製の雨雲が乾き気味の国土に適量の水気をもたらし、湿りすぎず乾きすぎない、過ごしやすい夏を保つのである。


 そのため、彼ら魔法学院生も夏冬変わらず長袖の衣類を着用している。

 変化といえばせいぜい、マントを着けずに片脇に抱えるくらいであった。


 よって、片隅に謎の大釜が置かれたここ、ヴェストリの広場のベンチに腰掛け、ナニカを編んでいるルイズもまた、いつも通りの服装だった。









Fate/vacant Zero

第二十三章 複雑明快な連逢れんあい事情







 時間はちょうど昼休み。

 昼食を終えたルイズは、何やら上機嫌な才人やデザートの戌桃のタルトを食堂に放置して、脇目も振らずに広場を訪れ、こうして編み物をしている。

 そして時折、休憩がてらボロボロで白紙の『祈祷書』を開いては、姫の婚姻の式に相応しい詠うたい文句に頭を悩ませる。


 それはこの一週間で、すっかり日常となった光景であった。



 日常、といえば、彼女の前方では、これまたいつものように幾人かの生徒たちが、思い思いに遊んでいたりする。


 ボールを風で奪い合い、木に吊り下げた籠に叩き込む一団。

 水の球を浮かばせ、お互いにぶつけ合う一団。

 己の生み出した『戦乙女ワルキューレ』を、金属塊に戻しては首を捻って唸っているギーシュなど。


 最後のは遊んでいない気はするが、今のルイズにはどうでもよかった。

 彼女はそれら一団の方をちらっと眺めやると、己の手元に視線を戻し、切なげな溜め息を漏らした。


 端から見れば、そんな様子は一枚の絵画の様ですらある。

 ギーシュがこちらに視線をやっていれば、『戦乙女』の造形イメージに一瞬で影響を与えただろう。

 黙って座っている時の彼女は、そのぐらい様さまになった美少女だった。



 さて、彼女の趣味は編み物である。

 幼い頃、魔法がダメならせめて器用になるようにと、彼女の母が仕込んだものであった。


 が、しかし。

 彼女は、彼女の母同様に、窮めつけの無器用でもあった。


 いや、教師が彼女の次姉であれば、また話は違った
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