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fate/vacant zero
複雑明快な連逢事情
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のかもしれないが。

 とにかく、彼女の天運人運は、彼女に編み物の才を与えてはくれなかった。



 最近のルイズは、セーターを編んでいた。



 編んでいるつもりだった。



 ……編んでいた、んだと思う。



 …………編んでいたんだろうか?



 いま現在、出来上がりつつあるのは……、えーと……、あー……、うー……。





 ……まぁ、控えめに言って、ひねくれたウミウシのぬいぐるみである。

 才人の世界にいたメリベなウミウシなんかをイメージすれば、雰囲気的には近い……だろうか。


 とりあえず、腕に相当する部分が3つもあったり、そのどこにも穴が開いていなかったりする編み物は、セーターとは普通言わないはずだ。


 ルイズもそれは理解しているようで、恨めしげに自らの作り出した珍妙不可思議で胡散臭いオブジェを眺めると、また一つ溜め息をついた。





 厨房勤めの黒髪メイドの顔が脳裏を過ぎる。


 彼女が才人に食事を施していることを、自分は知っていた。

 厨房でのその行動をサイトは気付かれていないと思っていたようだが、自分の目はそこまで節穴ではない。

 一日食事を抜いた日でもケロッとしていれば普通は気付く。


 サイトを食堂の食卓に着かせたのは、それがなんとなく嫌だったからだった。

 自分の持っていないものを見せつけられるようで。



 あの娘こは、料理を作ることができる。

 キュルケには溢れる美貌があり、タバサには『士爵シュヴァリエ』になれるほどの魔法の才能がある。


 なら、自分には。


 貴族メイジであっても魔法使いメイジたれない自分には、何があるんだろう?

 そう思って、久しぶりに趣味の編み物に手を付けてみたのだが。


 もう一度、自分の作品を眺めてみる。



 ――だめだこりゃ。



 そんな感想が即答できてしまう辺り、自分の才能の無さに絶望する。


 そのまま軽く鬱っていたら、肩を誰かに叩かれた。

 振り返ってみれば、ベンチの背もたれに肘をついたキュルケがそこにいる。


 ――まずい、こんなモノ見られたらまたからかわれる。


 キュルケと小競合ってきた一年で培われた思考回路はそんな予測を反射的に捻り出し、追随した腕は"さっ"と傍らに置いていた祈祷書で、セーターな『作品』を隠蔽する。

 この間1秒。

 長年揶揄され続けたことにより身についた、一つの才能であった。


 果てしなく後ろ向きな結実だったが。



「ルイズ、何してるの?」


 キュルケはいつものように挑発的な笑みを浮
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