禁断の果実
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インの危機は、去ったのじゃ」
少し悲しげに顔を俯かせたルイズに、老オスマンは優しく声を続ける。
「そして、来月にはゲルマニアにて、無事に王女のゲルマニア皇帝との結婚式が執り行われる旨、昼前に急使が伝えてきよったよ。
きみたちのお蔭じゃ、胸を張りなさい」
さすがにそれは無理な相談だった。
幼馴染のアンリエッタは、恋人を亡くしたばかりだというのに、政治の道具として皇帝に嫁入りさせられるのだ。
そうして涙を流していたアンリエッタを、ルイズは過日に目の当たりにしてきたばかりなのだから。
その胸は張られるどころか、奥から締め付けられて仕方が無かった。
無言で一礼する憂うれいた様子のルイズをしばらくじっとみつめていた老オスマンは、おもむろにその手の中の『始祖の祈祷書』をルイズに差し出した。
「これは?」
「始祖の祈祷書じゃ」
「始祖の祈祷書? ……これが?」
ルイズの怪訝な視線は、ボロボロの『祈祷書』から、老オスマンへと移された。
王室に伝わるとされる、伝説の書物。
国宝とされていたはずのこれを、何故老オスマンが持っているのだろうか?
「トリステイン王室には伝統ともいえる風習があっての。
王族の結婚式の際には、貴族より選ばれし巫女を用意する。
そして選ばれた巫女はこの『始祖の祈祷書』を手にし、式の詔みことのりを詠みあげる。
そういう習わしじゃ」
「はぁ」
ルイズはそこまで詳しい王室の作法は初耳だったので、そんな気のない返事を返した。
……で、何故そんな重要な代物が、いま私の手に渡されたんだろう?
「ミス・ヴァリエール。姫はその巫女に、そなたを指名してきたのじゃ」
「姫さまが?」
「その通りじゃ。
巫女は式に至るまでの間、この『始祖の祈祷書』を肌身離さず持ち歩き、詠みあげる詔みことのりを考えねばならぬ」
「……え。
き、『祈祷書』に詔みことのりが書かれているんじゃないんですか?」
「中を読んでみたまえ」
胸の前に祈祷書を持ち上げ、パラパラとページをはためかせて、ルイズは硬直した。
「そういうことじゃ。勿論、草案は宮中の連中が推敲するじゃろうがの」
ルイズは こおってしまって うごけない。
「伝統というやつは面倒なもんじゃが、姫はミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ」
ルイズの こおりが とけた。
「これは大変な名誉じゃぞ?
王族の祝事に立ち会い、詔みことのりを詠みあげるなど、一生に一度あるかないかじゃからな」
アンリエッタが
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