第12節「昇る朝日が求めているのは」
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ないのだから」
「……チッ」
ツェルトはドクターを突き放すように手を放す。
切歌は勝手に動いたドクターへの苛立ちを現すかのように地団太を踏んだ。
「胸糞悪いデスッ!」
「驚きましたよ。謝罪の機会すらくれないのですか」
「どの口が言うか、どの口が!」
『虎の子を守りきれたのがもっけの幸い。とは言え、アジトを抑えられた今、ネフィリムに与える餌がないのが、我々にとって大きな痛手です』
操縦室から届く、ナスターシャ教授からのテレビ通信。
既に口元から垂れていた血は拭われている。
「今は大人しくしてるけど、いつまたお腹を空かせて暴れまわるか、分からない」
調の視線の先には、ビームを格子とした檻の中で眠る、ネフィリムの幼体。
アジトを失った今、エアキャリアの内部で暴れられれば一巻の終わりだ。
「持ち出した餌こそ失えど、全ての策を失ったわけではありません」
「あんのか? 腹ペコのネフィリムを満足させられる量の餌を用意する方法が」
「ええ、ありますとも」
立ち上がり、コートの襟を正しながら、ウェル博士は不敵に笑う。
切歌や調の首元に光る、ギアペンダントをじっと見つめながら……。
ff
「無事かッ! お前達ッ!」
甲板の搭乗ハッチを押し開け、弦十郎が上がってくる。
海上を航行する仮設本部の甲板にて、ギアを解除した装者達はそれぞれへたり込んでいた。
「師匠──」
「叔父さん……」
俯いていた装者達が顔を上げ、弦十郎の方を向く。
その顔には、それぞれ困惑や悔しさが滲んでいた。
「フィーネさんとは、たとえ全部分かり合えなくとも、せめて少しは通じ合えたと思ってました……。なのに──」
再び俯く響の肩に、翔が腕を回す。
弦十郎は装者達をまっすぐ見つめ、拳を握りながら言った。
「通じないなら、通じ合うまでぶつけてみろッ! 言葉より強いもの、知らぬお前達ではあるまいッ!」
弦十郎の言葉にクリスと純が笑い、翼は表情を引き締める。
そして響は両手を拳に握りながら膝で立ち、いつもの調子で答えた。
「言ってること、全然わかりませんッ! でも、やってみますッ!」
「きっと、必ずこの手は届く。いや、届かせてみせるッ!」
若者達の姿に、弦十郎は優しく微笑む。
また一つの戦いを終えた彼らを、海から顔を出し始めた太陽が明るく照らしていた。
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