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遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
ターン25 熱血指導、大熱血
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「やりました、お姉様!見ていてくださいまし……た……か………」

 一礼を終えてもしばらく鳴りやまなかった拍手が落ち着き、満面の笑みでぱたぱたと降りてくる少女。その狙いは当然、自身が誰よりも敬愛し親愛するお姉様。勝利の高揚は一時的に、先ほど試合中に感じとっていたお姉様の激昂のことすらも忘れさせていたらしい。

「それで?八卦ちゃん、何か言うことは?」

 真正面からそれを見つめる糸巻の言葉は、これまで少女が聞いたこともないほどに平坦な声だった。怒り、心配、焦り……そして、それ以外の何か。あらゆる感情がこもっていながらも、その全てを力づくで抑えつけているかのような爆発寸前の声。目だけがまるで笑っていないにっこり笑顔の後ろ、その死角ではこの少女を「特別ゲスト」としてしれっと参加させた共犯者の清明が「とりあえず逃げて」と真剣な目でジェスチャーを送っている。
 そうしたいのはやまやまだったが、しかし駄目だ。絶対に、このお姉様からは逃げられない。それは理屈ではなく本能であり、この女がその現役時代の二つ名に夜叉の称号を贈られた理由を真に思い知った瞬間だった。

「勝手な真似をして、すみませんでした……」

 いくつものもっともらしい言い訳が、数秒の間にくるくると少女の脳裏を駆け巡る。しかし最終的にそのどれも採用することはなく、精一杯の誠意を込めて頭を下げた。少女たちの行動を差し引いてもそれだけ糸巻の様子は妙であり、何かわからないなりにそこに何かを感じ取ったからだ。
 一言も口にしない糸巻に、ひたすら頭を下げ続ける少女。もしそれで糸巻の態度が軟化するというのならば、たとえ10時間でもそうしていただろう。もっとも、その不毛な時間はそこまで長くは続かなかった。2人の間に、呆れたような声が割って入ったからだ。

「これ、そこな妖怪生意気乳女。黙って見ておれば、一体幼子相手に何をやっておるのかえ」
「ん……ああ、時代錯誤のお姫さんか。悪いが、これはアタシとこの子の問題なんでな」

 そこに現れたのは、赤い和装と黒地に金の特注デュエルディスクを持つ女性。つい先ほどまで先輩デュエリストとして少女と激闘を繰り広げた笹竜胆(ささりんどう)である。邪険な糸巻の態度もどこ吹く風と軽く流し、上品に手で口元を隠しながらこれ見よがしに芝居がかったため息をついてみせる。

「お主も変わったものだのう。以前のお主ならば此度のような勝手を怒るどころか、むしろ自分から率先して参加者に放り込んでいたろうに。のう?」
「……さーな」

 そっけない返事だったが、笹竜胆はそれで何かを確信したらしい。満足げに頷くと次いでつ、と伸ばした手でいまだ下がったままの少女の頭を持ち上げ、その背筋を伸ばさせる。

「都合が悪いと視線を外し、後ろめたいと口数が減る。お主、現役時
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