第三章
[8]前話
「だって猫も人の言葉わかるでしょ」
「ええ、そんな感じがするわね」
「だからね」
「ホワイトにお話するのね」
「じっくりね、そしてね」
そのうえでというのだ。
「前向きになってもらうわ」
「それじゃあね」
「ええ、これからお話するわ」
こう言ってだった、敦子は実際にだった。
ホワイトに兄夫婦の写真、仏壇に置いてあったそれを見せつつ話した。話した時は座布団の上で丸くなっていて寝ていたホワイトも。
座って聞く様になり話が終わるとだった。
悲しそうに鳴いてそしてだった。
暫く項垂れていた、数日の間落ち込んでいる様だったが。
やがて日常の生活に戻った、もう波止場の方に行ってずっと海を見ることはなくなっていた。その代わりに。
毎朝起きると最初に仏壇の方に行って兄夫婦の写真を見る様になった、その彼に敦子は笑顔で話した。
「お兄ちゃんとお義姉ちゃんへの朝の挨拶終わったのね」
「ニャア」
ホワイトは敦子に応える様に鳴いた、そしてだった。
敦子が用意した皿の上の小魚を食べる、その彼を見て敦子は両親に言った。
「ホワイト今日も元気よ」
「仏壇に参ってか」
「そうしてよね」
「ええ、じゃあ私もね」
敦子は自分のことも言った。
「今からね」
「学校だな」
「頑張って来るわね」
「ホワイトも頑張ってるし」
そうして生きているからだというのだ。
「私だってね」
「あんた大学行くのよね」
「うん、地元の大学にね」
そこにとだ、母に微笑んで答えた。
「水産科あるし」
「卒業したら漁師さんになるの?」
父の後を継いでとだ、母は娘に尋ねた。
「そのつもりなの?」
「それはわからないけれど将来水産業に関わりたいから」
「それでなのね」
「お父さんもお兄ちゃんも漁師だったし」
やはりこのことが大きかった。
「だからね」
「それでなのね」
「私も頑張るわ」
「ホワイトと一緒によね」
「ええ、そうするわ」
笑顔でこう言ってだった。
敦子は学校に行った、そうして学業に励むのだった。家を出る時もホワイトを見たがお互いに明るい表情で見合って行ってきます、行ってらっしゃいの挨拶もした。それからホワイトは家でゆっくりとした時間を過ごした。時折思い出した様に海の方を見たがもう波止場まで行くことはしなくなっていた。
海を見て 完
2020・4・25
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