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おぢばにおかえり
第五十八話 入学前のその十

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「いさんでいかないとね」
「ええ、けれど千里は何でも真面目というかね」
 お母さんは私を見てこうも言いました。
「堅苦しいのよね」
「頭固いかしら」
「そんなところがあるから」
 だからだというのです。
「気を付けてね」
「そのことは」
「柔らかくね」
「考えていったらいいのね」
「あの子みたいにね」
「あの子って誰?」
 そう言われてもわかりませんでした。
「一体」
「ほら、あの宇陀の方の子よ」
「阿波野君?」
「あの子考え柔らかいでしょ」
「柔らかいっていうかいい加減よ」
 私が思うにはです。
「適当でね」
「そうかしら。ちゃんと筋は通ってるから」
「いいのね」
「千里にないものを持ってるわよ」
「その柔らかさなの」
「そう、千里は生真面目だけれど」
 このことはよく言われます、子供の頃から。
「ちょっと遊びを知らないからね」
「遊んだら駄目じゃない」
「違うのよ、それが」
 お母さんは笑って言いました。
「多少はね」
「遊んだ方がいいの」
「そう、そうした方がね」
「柔らかくなるの?」
「それだけじゃなくて」
 さらにというのです。
「人として深みも出て来るのよ」
「遊ぶとなの」
「そう、千里はこれまでおみちのことに勉強に部活にってね」
「そうしたことばかりで?」
「あまり遊んでこなかったから」
 だからだというのです。
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