第五章 トリスタニアの休日
第三話 女ったらしにご用心
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ろに、士郎は物騒な物を取り出した男達に向かい合う。
「また貴様か!」
「舐めやがってもう許さねぇ!」
「上等だぶっ殺してやる!」
大振りのナイフを取り出した男達は、口々に士郎に罵声を浴びせる。気の弱いものなら震え上がる罵声を、士郎はどこ吹く風かと気に止めていない。
ジェシカは肩に掛かった服を握り締めると、士郎の大きな背中を見上げる。
冷えて固まっていた身体が、熱く火照っていく。
恐怖に染まっていた心が、温かい何かに包まれる。
強張っていた表情が、柔らかく緩んでいく。
視界の端にナイフを持った男達が、士郎に向かっていくのを捉えたが、全く焦りもなにも浮かばない。
男達が慣れた手つきでナイフを振り上げ、
「……馬鹿が」
吹き飛んだ。
「すまない。もっと早く来れれば」
呆然と見上げてくるジェシカに手を差し伸べるが、ジェシカは顔を見つめてくるだけで何も反応しない。最悪の予想が脳裏を過ぎ。士郎が歯を食いしばると、おずおずとジェシカが口を開いた。
「……何で」
「ん?」
「何で助けて……」
「え?」
「助けてくれたの?」
「……」
答えを聞きたいが、聞くのが怖いというように、ジェシカの視線が彷徨う。叱られるのを恐る小さな子供の様な仕草に、思わず小さな笑みが浮かび。膝を曲げ視線を合わせると、微かに流れる涙を指先で拭いつつ、ジェシカの頬を優しく撫でた。
「あ」
ハッと顔を上げたジェシカを安心させるように笑いかけると、止まりかけた涙が勢い良く流れ出した。 突然泣き出したジェシカに驚き、頬から手が離れそうになったが、直前にジェシカの手が重ねられ、離れることはなかった。
「っ……ぁ……っ」
「ジェシカ?」
「シロウ!」
ボロボロと涙を零すジェシカが心配になり、士郎が体を寄せると、ジェシカは勢い良く胸に飛び込み、背中に腕を回し。胸元に顔を押し付けると、身体を震わせながら声を上げ泣き始め出した。
小さな子供の様なその姿に応えるように、士郎は自分が掛けた服の上からジェシカの身体に腕を回し、ゆっくりと抱きしめた。
「もう大丈夫だ」
視界が緩く上下に揺れる。
ズレる体を両腕に力を込めて動かし、広い背中に体を擦り付けるように動かす。
背中に片耳をつけ、緩やかなリズムを刻む心臓の音を聞く。
「どうかしたか?」
「……んん」
士郎が声を掛けてくるのを、小さく顎を引き答える。
顔を押し付けた背中からは、胸が苦しくなる不思議な匂いがした。
士郎に背負われながら、ジェシカはぼんやりとした目で、闇の中ぼんやりと浮かぶ白い髪を見つめる。
締め付けられるような息苦しさ
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