第五章 トリスタニアの休日
第三話 女ったらしにご用心
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とだ。
士郎に惚れても、相手は貴族だから無理……だから、せめてあの子が客の相手をして、あたふたしてる姿を見て溜飲を下げていた。
だから、あの子が客のあしらい方を覚えたのを見て焦ったんだ。
全部持っていってしまうあの子を見て……。
せめてチップレースで勝とうと……。
「あ〜あ……あたしって馬鹿だな〜……」
知らず口元に浮かんだ苦笑を隠すように、手で口を覆う。
「ま、今ならまだ間に合うわね」
指の隙間から漏れ出た声は……震えていた。
「あっ、ここ」
気付けば見覚えのある所に着いていた。
そこは何の偶然か、士郎と初めて会った場所だった。
ついこの間のことだというのに、随分と懐かしい気がし。先程とは違う笑みが顔に浮かび、口から小さな笑い声が漏れた。
「はは……変なの」
懐かしさだけでなく、寂しさや悲しみが胸に湧き。早く離れようとジェシカは、近道だが、日が落ちたら使わないよう注意していた路地裏に向かって駆け出した。
路地裏に入ると、唯一の明かりである星明かりが遮られ、周囲は更に闇に染まっている。路地裏に入ってすぐ、闇に目を取られたジェシカは、荒れた地面に足を取られ音を立て転がった。
「痛っ……っ、もう最悪……」
痛みに堪えながら立ち上がったジェシカは、足首に走る鋭い痛みに顔を顰めた。
壁に手をつき、前に進もうとするが、目は未だ闇に慣れていない。歩くよりも遅い速度で、ゆっくりと前へと進む。
「ちょっ、あっ!」
闇に紛れ落ちていた何かに足を取られ、再度地面に向かって倒れるジェシカ。咄嗟に目を閉じる。痛みに耐えるように歯を噛み締めた。
しかし……。
「あれ?」
痛みはこなかった。
恐る恐ると目を開けたジェシカは、右手を誰かに握られていることに気付く。
まさかと焦る気持ちを抑えるように、ゆっくりと振り向くと。
「よう、奇遇だな」
「あ」
大きな手で腕を握り締める。
歪んだ笑みを向ける、男達がいた。
「あ、ありがと。でも、もう大丈夫だから放してもらっていいかな?」
凶暴な獣を刺激しないように、静かに話しかける。握る手の上に自分の手を置き、無理やり笑いかける。
「ハハハ! ……誰が放すか。店ではあの野郎が邪魔したが、ここじゃあ誰も来ねえ。こっち来いよ」
「あんたに払った分は取り戻させてもらうぜ」
「ひひひ……楽しみだなぁ」
「あ、あんた達」
やっと闇に慣れてきたジェシカの目に、店で絡んできた男達の姿が映った。咄嗟に逃げ出そうとしたジェシカだが、腕を掴む男の手は強く、逃げ出すことが出来ない。
「そ、そんな」
「まさかお前
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