第五章 トリスタニアの休日
第三話 女ったらしにご用心
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を感じ、士郎の体に回した腕に力を込めた。ぎゅっと目を瞑り、背中に頬を寄せる。
はぁ……失敗したな。
助け出され、すっかり油断した。
思いっきり泣いてしまって、子供のようにあやされて……でもそれが嫌なわけじゃなくて……。
弱った心を優しく包み込んだり。
凍える身体を抱きしめて温めたり。
……そんな事されたら……。
ますます好きになってしまうじゃない。
馬鹿……。
馬鹿馬鹿。
馬鹿馬鹿ば〜か……。
……バカ……。
あたしの……。
……ばか……。
でも……おかげで確信した……。
……士郎は天然の女ったらしだと。
前からそうじゃないかと思ってたけど……今回のことで確信した。
「天然かぁ〜……あ〜ぁ……やっちゃった」
「何か言ったか?」
「ん〜ん、何も」
顔を上げ応えると、士郎の匂いをもっと嗅ぎたくて、首元に顔を寄せる。
静かに、しかし大きく息を吸い込む。士郎の匂いを感じながら、ジェシカは小さな頃、『魅惑の妖精』亭で働いていた当時の看板娘に言われたことを思い出していた。
―――いいジェシカちゃん、あなたが将来、ここで働く気があるなら、男を見る目を養いなさい―――
―――ここに来る男の人の目的は、お酒じゃなくてわたしたち女よ。だからわたしたちを手に入れるため、男達は色々な嘘をつくわ―――
―――でも気を付けなさい……男を見る目が鍛えられれば鍛えられるほど……男を信じられなくなってしまうから―――
―――そうなれば、どんなにいい男が現れても心が動かなくなってしまう―――
―――恋が出来なくなってしまうわ―――
―――だからね、そうなる前に恋をしなさい……好きな人を作りなさい―――
―――……でも女ったらしにだけは気を付けなさい……特に……―――
―――特に天然の女ったらしにはね―――
―――わたし達みたいな商売をしている女にとって、天然の女ったらしは天敵よ―――
―――天然の女ったらしはね、嘘とかお世辞とか言わずに、ただ真っ直ぐに自分の気持ちを伝えてくるからね……―――
―――引っかかってしまったら、わたし達みたいな女は一気に深みまで引き込まれてしまう―――
―――捕まってしまったら、逃げられない……劇物みたいなものだから……ね―――
「忠告されたのに……捕まっちゃった」
士郎の耳に入らないほど小さな声で呟くと、ますます腕に力を込めて身を寄せる。
最初は小さかった笑みが、段々と大きくなり、頬が痛む程に笑みが強くなり。
「ふふ……ま、いっか」
段々と遠くなる意識
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