第五章 トリスタニアの休日
第三話 女ったらしにご用心
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笑いを漏らすと、ルイズはゆっくりと目を閉じ。今日一日の出来事を思い出す。
チップレース三日目。
初日、二日目に続き、『魅惑の妖精』亭は盛大に盛り上がっていた。
そんな客と少女達の笑い声が響く中、一人ルイズは声を出さず、小さく笑っている。
ルイズの視線の先には、昨日ルイズが配膳をした男が、緊張の表情を浮かべて座っていた。
「は、ははっ……。その、今日も来ちゃったよ。その、元気だったかい?」
「ええ」
緊張に震える男に、ルイズが目を伏せ小さく笑う。ルイズが浮かべた小さな笑みに、男の顔が真っ赤に染まる。真っ赤に染まった顔を隠すように、男は頭を下げ。後頭部を片手でかきながら、空のコップにワインを入れようと瓶に手を伸ばす。が、男の手は瓶に触れることはなかった。
「え?」
男が戸惑いの声を上げ、顔を上げると、瓶を手に持ったルイズが笑いかけていた。
無言で瓶を傾けてくるルイズに、慌ててコップを差し出す男。
コップにワインが注がれる音が響く中、男はルイズに見惚れていた。昨日見せた礼とは違い、どこかぎこちなさが見える動作だったが、ちょっとした仕草に感じる気品に男は魅せられていた。
「それでは失礼します」
「えっ! あ、ちょっと」
「……はい。何でしょうか?」
ワインを注ぎ終わり。一礼したルイズが背を向けると、ぽーとしていた男が慌てたような声を上げた。呼び止められ、ゆっくりと、かつ優雅に振り返ったルイズは、小首を傾げながら問いかける。
「あっ、そ、その。君みたいな人がこんなところにいるのは、何か事情があるんだろう。……それは聞かなくても分かる……分かるよ。僕じゃきっと君の力になれないだろう……だけど、せめてこれを受け取ってくれないかな」
「えっ……これは」
男が勢い良く差し出さした手には、一つの袋が入っていた。恐る恐るといった様子でその袋を受け取ったルイズが、袋の中を覗くと、金貨と銀貨が袋いっぱいに詰まっていた。
目をいっぱいに見開いたルイズに、男は赤く染まった顔を隠すように背ける。
「君にとってははした金かもしれないけど、少しでも君の力になれれば――」
そこまで言い、横目でそっとルイズの様子を覗いた男の目に、
「……あ」
袋を胸に当て、満面の笑みを浮かべたルイズの顔が飛び込んだ。
口をポカンと開け、男がルイズを見つめる中、ルイズはもう一度礼をすると、男の前から去っていった。
客席の死角から、ルイズと男のやり取りの一部始終を見ていた士郎が、腕を組み背を壁につけた姿でニヤリと口元を曲げた。
店が開店する前、士郎はルイズに二つのことを指示した。
一つ目は客との距離を縮めること。
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