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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
緋神の巫女と魔剣《デュランダル》 X
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絶えた《浅緋の蛇蝎》の残骸に向けて悔恨を吐く。
その隙を、防戦一方に置かれていたジャンヌが見逃すはずがなかった。彼女にとっては千載一遇の好機に該当るのだから。

甲冑を身にまとっているにも関わらず、初動は早い。氷霞とはまた異なる風を見せている銀氷が、彼女の周囲を取り囲んでいた。
それらは聖剣に煌く珠玉よりも珠玉めいた、秀麗な金剛石そのものに見える。金剛石の欠片が、舞踊っていた。

──また。まただ。つい先刻に揺らめいた白昼夢が、尚も執拗い蛇蝎のように纏わりついてくる。何故か意識が呆然としてきたのは、やはりそのせいなのだろうか。何かがおかしい。頭痛と、眩暈と、嘔気がする。平衡感覚が、狂っているみたいだ──。


「彩斗、馬鹿! 避けろ!」


キンジの狼狽の声に重なって、45口径の発砲音が聞こえた。それがジャンヌに向けて発砲された、云わば足止めにもならぬ足止めであったことに、今しがたようやく気付くことになる。そしてもう、《緋想》を構え直しても遅いだろうことにも、また。
彼女は既に、その聖剣の間合いに入っていたのだから。


「……莫迦が」


刹那、周囲の空気が急冷されていく。今までとは比にならない、氷点下ではないのかと紛うほどの、それ。
そうして、銀氷が勁烈に舞い始めた。氷霞のような可愛らしいものではなく、吹雪のように──全てを虚無に滅却させると暗に告げている気がして、寒冷か或いは憂惧のためか、身震いした。


「《オルレアンの氷華(Fleur de glace d' Olreans)》──貴様が枯らせた華は、私が新たに咲かせてやろう。それが貴様の死花だ。ここで銀氷となって、妖艶に散れ!」


袈裟状に振り上げられた聖剣デュランダルは、銀氷の吹雪の中で蒼玉を纏っていた。鋭敏なその切っ先は、先程と同じ、首筋を狙っている。これを避けられなければ、死ぬ。そう直感した──。

眩暈と嘔気で朦朧とする意識の中で、文字通り最後の力を振り絞って、《緋想》を握り締めた。
流動的だった時の流れが、次第に緩慢になる。視界と意識とが清澄に思えるこの感覚は、明らかな《明鏡止水》のそれだった。スローモーションになった世界を見渡して、安堵の溜息を吐く。

そうして目に付いたのは、まさに僥倖とも言える僅かな隙だった。ジャンヌ・ダルクという策士が策を遂行しかけた刹那に見せた、ほんの微細な、油断とも呼べないような隙。下腹部を覆う甲冑の噛み合わせから覗く白絹の下地が、銀氷に映射して見えた。

──次第に《明鏡止水》が解けてゆくその感覚を感じながら、限界を超えているであろう身体を酷使して、《緋想》の切っ先をその隙間へと滑らせる。下地の裂ける感触と確かな皮膚の感触とを指に伝わせてから、首筋に向けられた冷気を振り切った。
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