暁 〜小説投稿サイト〜
映写機の回らない日 北浦結衣VS新型ウイルス感染症
最終話 私たちにできること
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あるが、私たちには、涼子と結衣の日だ。

「本当は結衣と隣同士で座りたかったな」

 この映画館も感染拡大防止のため、座席は一つ空けてしか売ってくれない。私と涼子は間に一席おいた横並びで座った。そのことを忘れてポップコーンは一つしか買わなかったことを悔やんだ。

「私はあんまりお腹すいてないから、涼子が食べなよ。実はバターないほうが好きだし」
「え! じゃあ、バターかけるのが好きな私に合わせてくれてたの? これまでずっと」
「いやいや、別にたいした話じゃないでしょ。なんか、いい話みたいにしないでくれる?」
「ちょっと感動」
「そんなことで感動されても。言わなきゃよかったなあ」

 場内が暗くなる。予告編の間、ふっと横を見た。涼子はポップコーンをパクつきながら、スクリーンを見つめている。隣同士じゃない分、じっと見てても気づかれない。この子と仲良くなれて本当によかった。私はウイルスに感染した。重症ではなかったけれど、辛く苦しい経験だった。だが、いまは回復し、前を向いている。いろんな人に助けてもらったが、特に涼子がいなければ、だめだったに違いない。

「ねえ、結衣」
「うん?」
「今日は誘ってくれて、ありがとね」
「こっちこそ、来てくれてありがとう」

 症状はまた再発することもあり得る。世の中もこれからもっと厳しくなるかもしれない。でも、それでもだ、いま私には確信がある。だめになりそうになっても、また前を向けるという強い確信が。涼子が友達なら、なんとかなるんだ。映画館だから声には出せないが、私は心の中で叫んだ。

「バカヤロウ! 私たちはここにいるぞ!」

                
戦いは続く。打ち勝つその日まで

×××


あとがき

 この短編小説の連作は、二〇二〇年三月一八日から一九日の二日間をかけて書いた『私には要も急もある 羽田涼子VS新型ウイルス感染症』に登場したキャラクター、結衣を主人公としたものです。『私には要も急もある』は三月一九日前後に私が見聞きし感じたことを投影しましたが、それから日に日に状況は変化しております。そのため、あらためて状況の変化を見据えながら、今度は連作という形で日々感じたことを更新しつつ書いていきました。涼子や結衣の置かれている状況は、他の場所や立ち位置、特に一部の外国に住む方々に比べれば非常に甘いものかもしれません。ただ、ある状況において涼子や結衣のような感覚を持ち、日々を不器用ながらも実直に生きる人たちはいるだろうと、その思いを想像し、創作の形で描写したつもりです。

 本作の最終話を書き終えたのは、二〇二〇年四月一日です。つまり、その時点までの世の中の情勢を踏まえての私の考えと感覚にすぎません。これから先の変化によって、まったく異なる状況の訪れ
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