第七章 決戦 広島対大阪
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自転車を漕いでいる。
「うおおおおお!」
昭刃和美が、凄まじい雄叫びを張り上げながら。
真っ赤なママチャリを。
急な上り坂であるため、速度はほとんど出ていない。
速度こそ出てはいないが、しかし運転は実にダイナミックかつスリリング。
ぎっちらぎっちら、ガッチャンガッチャン、買い物カゴに詰め込まれた荷物が、飛び跳ねて落ちそうになるのを、巧みなハンドルさばきで、前輪をスライドさせてすくいながら、手動式かき氷のハンドルのように、ガリガリガリガリ豪快にペダルを踏み込んで、坂を上っている。
自転車の前カゴだけでなく、背中の巨大リュックも物がぎっちり入っているようで、パンパンに膨らんでいる。
ようやく、この長い急坂の、終着地点が視界に入って来ようかというところで、カズミはラストスパートをかけた。
「おおおおおおおっ!」
ペダルを踏み込む足に、脚力を限界まで込める。
チェーンが切れるか骨が砕けるか、どっちが先かというくらいの力を。
ターボエンジンの点火に、自転車が信じられない加速を見せる。
鯉の滝登りのように、物理法則完全無視で、ぐんぐん進んでいく。
「頑張れー! カズミちあゃん!」
「カズにゃんファイトー!」
「コケたら笑うでえ」
坂の上に立っている、令堂和咲と平家成葉、慶賀応芽が、楽しげな顔で賑やかに声援を送っている。
いや、慶賀応芽のは声援とはちょっと違うか。
他にいるのは、明木治奈と、大鳥正香。
この五人が見守っている中を、カズミの漕ぐ自転車は、がちゃんがちゃんと金属を叩き付けるような、けたたましい音を立てて、走る、というか登る。登っている。
その音や豪快な雄叫びは、正直近所迷惑であろうが、カズミの前に常識無し、がっちゃんがっちゃんペダルを踏み込み踏み込み踏み込み抜いて、そしてついに、ゴオオオオオーール!
勢い余り、ちょっと宙を舞って、そして、どしゃりっと凄い音とともに、着地した。
「凄い、カズミちゃん!」
「五輪出られるよ五輪!」
盛大な拍手で迎える、アサキたち五人。
無駄な努力を単にからかっているだけ、に見えなくもないが。
何故に無駄かといえば、坂があまりにも急で、どう考えても漕がずに押した方が遥かに効率がよいからだ。
とにかくそんなこんなで、坂道を登り終えたカズミは、
ふいー
疲労を吐息に混ぜながら、心地よさそうに額の汗を拭った。
理屈
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