第四章
[8]前話
「それが高まるにつれて狐の格も上がっていき試験も受けられる様になります」
「試験があるのですか」
「そうです、それにより狐の格も上がるのです」
「そういうことだったのですか」
「最高位の狐は天狐といいます」
「天狐ですか」
「そうです、そしてその妖力は」
親父はさらに話してきた。
「人の精から得られます」
「精、では」
「さて。ですが如何でしたか」
親父はこれまでの親し気な微笑みをにんまりとしたものに変えて本間に聞いてきた。
「お宿のおもてなしは」
「それは夢の様でした」
「夢ですか」
「そして疲れも」
女達とのことはあった、だがそれでもだった。
「すっかり取れました」
「それは何よりです。私達も得られて」
「僕もですか」
「お互い得られた、ならです」
「いいですね」
「左様です。ではまた縁がありましたら」
その時はとだ、親父は本間に話した。
「おこし下さい」
「そうさせてもらいます」
本間は親父に微笑んで答えた、そしてだった。
東京に帰り仕事に復帰したが随分調子がよく上司の課長にも言われた。
「本間君いいね」
「はい、疲れが取れて」
「それでだね」
「気持ちよく働けています」
こう課長に答えた。
「お陰で」
「心身ともにリラックスしたか」
「特に心が、もう」
それこそとだ、本間は課長に話した。
「桃源郷にいた気分です」
「何っ、桃源郷か」
「文字通りに」
まさにとだ、本間は笑顔で言うのだった。
「そんな気分です」
「それは何よりだな」
「はい、それでまた疲れた時は」
「温泉に行って来るか」
「そうしてきます、またああした思いが出来ればいいですね」
本間は心から思った、それで彼は疲れると温泉に行く様になった。だが彼があの宿に行くことはもうなかった。やがて結婚して妻が出来るとそれはなくなった。それが何故かは彼はわからなかったが温泉通いは続けた、そうして疲れを癒しつつ日常を生きていった。
温泉宿 完
2019・11・20
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