第四章
[8]前話
「おかしなこともある」
「そうしたものですか」
「そうかと、しかし」
「しかし?」
「いや、やはり大晦日まで山仕事をすることは」
「家での仕事をせずに」
「幾ら正月のことがあるとはいえ」
それでもというのだ。
「するものではない」
「その戒めですか」
「そのことはです」
「ミソカヨーイの言いたいことですか」
「若しくは今年はこれで仕事納めだぞとも」
「言ってきていますか」
「その辺りはどうかわかりませんが」
藤村は小野田にさらに話した。
「大晦日だけに出ます」
「その日以外には出ない」
「そうした妖怪もいるということですね」
「まさにその日だけ」
「これも何故かわかりませんが」
「世の中にはおかしなこともある」
「科学というものが入ってそこから何かと言われていますが」
維新以降はそうなっているとだ、藤村は話した。
「それでもです」
「こうしたこともあるものである」
「世の中は」
「そうですか。では私はです」
「どうされますか」
「警官としてこのことを頭に入れて」
そしてとだ、小野田は藤村に話した。
「これからもやっていきますか」
「そうされますか」
「はい、何でも科学では説明がつかず」
小野田は元々科学を万能とは思っていない、だがそれでもというのだ。
「おかしなこともある」
「そのことを頭に入れられて」
「ことを為していきます」
「そうですか、私自身も」
ここで藤村はミソカヨーイだけでなく自分自身そして家のことを思った。妖怪は出ずとも何かとおかしなこと科学ひいては理屈では語れぬことがあるとだ。
それでだ、彼は小野田に言うのだった。
「そのことは頭に入れていって」
「そしてですか」
「生きて」
そのうえでというのだ。
「書いていきます」
「小説を、ですか」
「そうしていきます」
「そうですか、ではお互いに」
「励んでいきますか」
「そうしましょう」
小野田は藤村に微笑んで話した、そしてだった。
二人はそれからは長野県のことを談笑した、もうそこにはミソカヨーイの話は出なかった。だが藤村にとっては故郷の小野田にとっては前の赴任先の話なので実に話が弾んだ。それは二人にとって実に楽しいものだった。
ミソカヨーイ 完
2020・1・15
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