第三章
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「そういうことです」
「それで今から山に入ります」
「それで薪を貰ってきます」
「それはわかった、しかしだ」
それでもとだ、小野田は樵達に言った。
「実際にミソカヨーイが出るかな」
「そのことがですか」
「気になりましたか」
「だからですか」
「わし等にですか」
「ついて行っていいか」
樵達に申し出た。
「私も」
「署長さんがそうされたいなら」
「わし等も疚しいことはしていないですし」
「大晦日まで仕事してますが」
「それでも法律に触れることはしてないですし」
「ならだ、共に入らせてもらう」
こうしてだった。
小野田は樵達と共に山に入った、彼は樵達の仕事を見守ったがテキパキとしていて無駄がなかった。そして。
その声がだ、彼等の後ろから聞こえてきた。
「ミソカヨーーイ」
「この声は」
最初に小野田が反応した、そしてだった。
その後ろを振り向こうとするとだった、言われている通りに。
首が動かない、それで振り向くことが出来ず。
ミソカヨーイの声の主を確認出来ない、それで言うのだった。
「言われている通りに」
「はい、首が動かないですよね」
「どうしても」
「この声を聞いて振り向こうとしても」
「どうしても」
「本当になるとは」
小野田はまさかと思いつつ述べた。
「思わなかったが」
「こうなるんですよ」
「それで姿は見えないんですよ」
「ミソカヨーイの姿は」
「どうしても」
「そうか、声はすれども姿は見えず」
小野田はその動かない首で話した。
「そうしたこともあるか」
「そういうことですね」
「要するに」
「まあ大晦日まで山仕事はするな」
「そう言いたいことはわかりますけれどね」
「そうだな、ではな」
ここまで話してだ、小野田は。
樵達の仕事を見守り彼等と共に山を下りた。もうミソカヨーイの声は聞こえず山を下りると首は動く様になっていた。
彼は東京に帰ってから藤村にこのことを話した、すると。
藤村は彼に落ち着いた声でこう話した。
「お話した通りでしたね」
「はい、本当に声がして」
そしてとだ、小野田は藤村に話した。
「振り向くこともです」
「出来なかったですね」
「全く」
「それがミソカヨーイなのです」
「長野の妖怪ですか」
「その一つです」
「いや、本当にいてです」
そしてとだ、小野田はさらに話した。
「首が動かなくなるとは」
「おかしなこともあるものだ」
「そうも思いました」
「それが妖怪なのでしょう」
「おかしなものですか」
「理屈ではなく、思えば世というものは」
藤村は小野田に達観した顔で話した。
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