暁 〜小説投稿サイト〜
映写機の回らない日 北浦結衣VS新型ウイルス感染症
第4話 いまのあんたはジョーカーと同じ
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ばれたのはいつだったか。中学生の頃、転校する友達のサプライズパーティーのやり方をめぐって対立したときだったと思う。茜に仲裁してもらって、仲直りできたが、あのときの涼子は怒りながらも悲しい表情をしていた。あの顔は忘れられない。いまもあのときと同じ、怒りと悲しみを顔ににじませているのだろうか。

「自分のことを要らないとか、そういうのはもうやめよ?」と涼子が震える声で言った。

 私はひどいやつだ。不要不急の外出は控えろと言われている中でも、心配で来てくれた友達にくだらない冗談を言い、怒らせ、そして悲しませてしまった。

「怒らせちゃったかな、菩薩の涼子を。謝るよ」

 もっとちゃんと謝らないといけないのに、変にカッコつけた言い回しになってしまう自分が情けなかった。


 あのあと、涼子は引き篭もっている私のためにトイレットペーパーやティッシュを手に入れようと奔走した。詳しいことは話してくれなかったが、店の物資の争奪戦で大変な目に遭ったのだろう。近所のドラッグストアで店員と客の間で、入荷した物資の販売タイミングを巡る騒乱があったことを翌日、ネットで知った。その場に涼子もいたのだろう。食料品しか手に入らなかったと涼子は口にしたが、彼女のことだ、きっとトイレットペーパーやティッシュを手に出来るチャンスがあったとしても、他の人に譲ったんじゃないだろうか。

「でも、本当に美味しかったね、あのドーナツ。結衣が淹れてくれたコーヒーも心が温まったよ」
「インスタントだけど、隠し味を入れてるからね」
「なんだろうな。いまだに教えてくれないんだもん」
「こういうのは、これだ!っていうタイミングのときに明かさないと」

 涼子が争奪戦から帰還したあと、私たちはひと時の和みを味わった。昨年より世界的に流行りだした、アメリカのカンザス州発祥のスイーツ、<カンザスドーナツ>を食べながら。心底、安らげるひと時だった。不思議なくらいに荒んだ心がすーっと癒されていった。すべて涼子のおかげだ。

 あの日から状況はさらに悪くなっている。感染者数の増加は止まらず、海外では医療崩壊と呼ばれる事態になっている国もあるという。メディアの伝え方には問題もあるだろうが、緊急事態であることは事実だろう。メディアといえば、聞き慣れない用語が飛び交うのには、苦笑してしまう。<パンデミック>はまだ、映画に親しみがあれば聞き覚えがある。だが、<クラスター>、<オーバーシュート>、<ロックダウン>はなんのこっちゃだ。映画館に勤めていたこともあって、昔の興行の勉強をした際、<サーカムサウンド>だの<ビジュラマ方式>だの<ダブルテンションシステム>だのといった、意味不明のシステム名による上映方式がかつてあったことを知り笑ったが、あれと変わらない。こんな冗談を言うと、涼子に怒られるか
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