第五十六話 波を掻き分けて
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の事をメイジだと思っていたようだ。
「彼女は養女よ」
「……」
「ミス・ヴァリエール。彼女が平民だと知ったからって、対応を改めるような事はしないでね? じゃないと殿下に粛清されるわよ?」
「し、しませんよ、そんな事」
「そう、なら良かったわ。貴女、いい娘だけど、一昔前の貴族みたいよ?」
「……ぐ、ぐぬぬ」
エレオノールは『ぐぬぬ』と唸ると、アニエスのところまで浮いて移動した。
「……うう?」
くぐもった声でアニエスが毛布から顔を出すと、シュヴルーズとエレオノールが二人でアニエスを抱きかかえようとしていた。
「な……何を」
「ちょっと我慢しててね。ミス・ヴァリエール、始めましょう」
「わ、分かりました」
シュヴルーズはアニエスの肩と腰に手を回し持ち上げようとした。エレオノールもシュヴルーズの反対側を持ち宙に浮かんだ。
「こうやって、宙に浮いて暫くすれば酔いは収まるはずよ」
「……ありがとうございます。ミス・シュヴルーズ」
だいぶ楽になったのか、アニエスの顔色は良くなってきた。
「私が考え付いたんじゃないわ、発案者はミス・ヴァリエールよ」
「そうでしたか、ありがとうございます、ミス・ヴァリエール。だいぶ楽になりました」
「べ、別にっ……貴女の為にした訳じゃないんだから!」
ツンデレのテンプレの様な答えが返ってきた。
「それでも、ミス・シュヴルーズと一緒になって私を抱えてくれました。とても感謝してます」
「……勝手にして!」
エレオノールは顔を真っ赤にして、ぷいっと顔をあらぬ方向へ向けた。
照れ隠しの意味もあったが、面と向かってお礼を言われる経験が無いエレオノールは少しだけ目が潤んでしまった。しかも、おべっかの類ではなく邪気の無いお礼だ。エレオノールは今の顔を誰にも見られたくなかった。
エレオノールの仕草が可笑しいのか、最初にシュヴルーズが笑い、釣られてアニエスも笑った。
一方のエレオノールは二人にヘソを曲げてしまったが、このやり取りでアニエスのエレオノールへの苦手意識は無くなった。
この日の内に、レビテーションを使ったコロンブスの卵的な酔い止め方は艦内に広まり、艦の何処彼処でメイジがレビテーションで宙に浮く奇妙な光景が見られるようになった。
マクシミリアンもこれに習い、愛妻の編んだマフラーを首にかけながら丸一日、空中に浮き続けた。
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