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水の国の王は転生者
第五十六話 波を掻き分けて
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、セバスチャンが間に合ったお陰で事なきを得た。

 『マクシミリアン王太子殿下、船酔いになられる!』

 この情報は瞬く間に艦内に広まった。
 ハルケギニアの人々にとって海は、先日まで未知の領域だった。そのせいか、『船に揺られる』という事を知らないハルケギニア人は基本的に船に弱かった。
 船酔いは、学術団の面々にも広がり、医務室は酔い止めを求める人々で長い列が出来た。
 水兵達は日ごろの鍛錬の賜物か、船酔いを起こす者は皆無だったが、コマンド隊の場合は、酔い止めで辛うじて平静を保っていた。しかし、アニエスは船酔いでの衰弱が酷く、ベッドから起き上がることも出来なかった。

「……」

「……うう」

「うっぷ」

 女性部屋では、アニエス、エレオノール、シュヴルーズの三人が、それぞれのベッドの上で迫り来る嘔吐感と戦っていた。

「……ミス・ミラン、喋れる? ちゃんと、返事しないと不安になるわ」

「……」

 『死屍累々』という表現がピッタリのアニエスは喋る事もできなかった。

「ミス・ミラン?」

「……あい」

 シュヴルーズがアニエスに尋ねると、弱々しくも返事が返ってきた。
 返事を返したアニエスは、毛布を頭まで被り身動き一つしなくなった。

「……」

「うー」

「あ〜」

 高い波にベルギカ号が揉まれる度に、ゾンビの様な呻き声を上げる三人。
 ……そして時間だけが流れた。

 エレオノールは、動かないアニエスが心配になった。
 どうしたものか、と頭を捻らすと妙案が浮かんだ。

「……そ、そうよ、いい事考えたわ。うぷ」

「ミス・ヴァリエール、どうしたの?」

 ベッドで横になっていたエレオノールが声を上げた。

「レビテーションよ。レビテーションで浮かべば、このムカムカから解放されるわ」

 エレオノールは杖を振るい宙に浮いた。

「そ、その発想は無かったわ!」

 シュヴルーズもエレオノールに習って『レビテーション』を唱えた。
 二人は宙に浮いて数分すると、嘔吐感が収まってきた。

「ミス・シュヴルーズ。力を貸してください」

「ん? いいわよ」

 二人はレビテーションで浮いた状態でアニエスに近づいた。

「……ミス・ヴァリエール。手伝うって、ミス・ミランを抱き起こす事?」

「そうです。ミス・ミランが、あの状態じゃ魔法も碌に使えないでしょうから」

「あ〜……彼女、魔法が使えないから」

「え? どういう事ですか?」

「彼女、平民の出だから魔法が使えないのよ」

「でも、ミラン家って、ちゃんとした貴族の家ですし、彼女の父親って、王国でも屈指の出世頭ですよ?」

 どうやら、エレオノールはアニエス
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