第五十六話 波を掻き分けて
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
、セバスチャンが間に合ったお陰で事なきを得た。
『マクシミリアン王太子殿下、船酔いになられる!』
この情報は瞬く間に艦内に広まった。
ハルケギニアの人々にとって海は、先日まで未知の領域だった。そのせいか、『船に揺られる』という事を知らないハルケギニア人は基本的に船に弱かった。
船酔いは、学術団の面々にも広がり、医務室は酔い止めを求める人々で長い列が出来た。
水兵達は日ごろの鍛錬の賜物か、船酔いを起こす者は皆無だったが、コマンド隊の場合は、酔い止めで辛うじて平静を保っていた。しかし、アニエスは船酔いでの衰弱が酷く、ベッドから起き上がることも出来なかった。
「……」
「……うう」
「うっぷ」
女性部屋では、アニエス、エレオノール、シュヴルーズの三人が、それぞれのベッドの上で迫り来る嘔吐感と戦っていた。
「……ミス・ミラン、喋れる? ちゃんと、返事しないと不安になるわ」
「……」
『死屍累々』という表現がピッタリのアニエスは喋る事もできなかった。
「ミス・ミラン?」
「……あい」
シュヴルーズがアニエスに尋ねると、弱々しくも返事が返ってきた。
返事を返したアニエスは、毛布を頭まで被り身動き一つしなくなった。
「……」
「うー」
「あ〜」
高い波にベルギカ号が揉まれる度に、ゾンビの様な呻き声を上げる三人。
……そして時間だけが流れた。
エレオノールは、動かないアニエスが心配になった。
どうしたものか、と頭を捻らすと妙案が浮かんだ。
「……そ、そうよ、いい事考えたわ。うぷ」
「ミス・ヴァリエール、どうしたの?」
ベッドで横になっていたエレオノールが声を上げた。
「レビテーションよ。レビテーションで浮かべば、このムカムカから解放されるわ」
エレオノールは杖を振るい宙に浮いた。
「そ、その発想は無かったわ!」
シュヴルーズもエレオノールに習って『レビテーション』を唱えた。
二人は宙に浮いて数分すると、嘔吐感が収まってきた。
「ミス・シュヴルーズ。力を貸してください」
「ん? いいわよ」
二人はレビテーションで浮いた状態でアニエスに近づいた。
「……ミス・ヴァリエール。手伝うって、ミス・ミランを抱き起こす事?」
「そうです。ミス・ミランが、あの状態じゃ魔法も碌に使えないでしょうから」
「あ〜……彼女、魔法が使えないから」
「え? どういう事ですか?」
「彼女、平民の出だから魔法が使えないのよ」
「でも、ミラン家って、ちゃんとした貴族の家ですし、彼女の父親って、王国でも屈指の出世頭ですよ?」
どうやら、エレオノールはアニエス
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ