第三章
[8]前話
「ツバサを拾う前に比べて」
「そうか?」
「ええ、会社が倒産してお父さんが亡くなってあの娘が入院する前みたいに」
不幸が重なったその前の様にというのだ。
「明るくなったわね」
「そうなんだな」
「ええ、この子と巡り合って一緒にいる様になって」
そのツバサを見ながら我が子に話した。
「そうなったわね」
「ツバサと一緒にいたらか」
「明るくなったわ、多分そのお陰でね」
「就職出来たんだな」
「そうよ、あとあの娘も退院するわよね」
「結核といっても早く見付かったし今は治るからな」
「じゃああの娘も戻って来るし」
それでとだ、母はさらに話した。
「本当にね」
「これからはか」
「前にみたいに明るく生きていってね」
「ツバサと一緒にか」
「そうしていってね」
「ああ、ツバサっていうのは俺もこいつと一緒に羽ばたけるかと思って」
そう考えてとだ、光一は母にご飯を食べつつ話した。鯵のフライと茸の味噌汁、豆苗の炒めものといったメニューだ。
「そう名付けたけれどな」
「その名前の通りね」
「俺も羽ばたけてるんだな」
「そうね、一度落ち込んだけれど」
それでもとだ、母もご飯を食べつつ話す。
「今はね」
「羽ばたいてるんだな」
「ツバサと一緒にね」
「そうなんだな、俺本当によかったよ」
光一はここまで話してあらためて思ってこの言葉を出した。
「ツバサと出会えて、じゃあ」
「これからもなのね」
「ツバサと一緒にいるよ」
「そうしていってね」
「俺をもう一度元気にして羽ばたかせてくれたから」
そのツバサを見て言う、そしてだった。
光一は食事の後でツバサと遊んだ、すると帰ってきた妹にこう言われた。
「お兄ちゃん明るい顔してるわね」
「そうか?」
「ええ、凄い楽しそうよ」
「ツバサと一緒にいるとな」
「そうなのね」
「ああ、本当に楽しいよ」
明るい笑顔で言ってだった、光一はツバサと共に遊んだ。その顔はもう完全に立ち直った羽ばたいている者の顔だった。
光一は就職して彼女が退院してもツバサと一緒にいた、彼と一緒にいる時間は彼にとっては至福の時になっていた。自分を立ち直らせてくれた彼と共にいるのだから。
足は三本でも 完
2020・3・29
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