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映写機の回らない日 北浦結衣VS新型ウイルス感染症
第2話 五十七番目の症例患者
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みたいにタルい展開もあるけど、最初と最後のバトルは見物だよね」
「うん、急に主人公の性格が変わったみたいで、あれって。でも、面白かった。暴力的なシーンが多くて、ちょっと恐かったけど。こういう世の中の空気だからって、変に絆や希望がどうこうとか逆に違和感があったりするし、少しスッキリしたよ。他の韓国映画も見てみようかな」

 指定の医療機関に入院中、涼子とは何度も連絡を取り合った。彼女には何度謝っても足りない。私の陽性が判明したあと、同僚は皆、検査を受けて結果は陰性。涼子にも症状はなかったものの、一人暮らしの私の周囲では彼女だけが十四日間の自宅待機を要請されてしまったのだ。お互いの家を行き来して、同居と変わらぬほどに身体の接触があったためらしい。

「そんな気にしないでいいからね。大学も卒業して、内定もなくなったからやることないし。トイレットペーパーとティッシュもこの前、買えたから大丈夫」
「ありがとう」

 涼子の気遣いに救われる。

「また面白そうな映画があったら教えて。POVだっけ? 覚えちゃったよ。あの撮り方が気に入ったから、それ系のやつとか」
「オッケー。白石晃士っていう、POVというか、フェイクドキュメンタリーの映画をよく撮ってる人がいて、すごく面白いんだ。今度また話すよ。そろそろ食事の時間だから」
「しっかり食べて、免疫力をつけてね。私もイベントに戻ろうっと」
「イベント? 外出できないし、それにイベントなんてどこも自粛なんじゃない?」
「ああ、オンラインゲームの話。結衣はゲームやらないもんね」
「そっか、ゲームは自粛なんて関係ないからいいね。運営とか開発してる人たちはテレワークとかで大変かもだけど」

 涼子はゲーム好きで、去年までオンラインゲームのカスタマーサポートのバイトもしていた。いまの時代、遊びや文化も多様になっている。映画もこのご時世を踏まえて、劇場公開とネット配信を同時に行う事例も増えている。映画館側の興行としては苦しいだけだが。

「じゃあ、またね」と言って、涼子は電話を切った。

 食事を終え、スマホを見ると、メッセージが着ている。職場の先輩からだ。それにはこう書いてあった。

「お前のせいだ」

(続く)
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