第三章
[8]前話
ベベは毎日庭に来た、だが老人に出会えず寂しそうにしていた。そのベベを見てだった。
車椅子の女性、秦めぐみは看護士河原崎と一緒にいた彼女に車椅子の中から尋ねた。楚々とした顔立ちでやや茶色の長い髪の毛で入院患者の服を着ている。
「あのワンちゃん毎日いますね」
「はい、実は」
「実は?」
「秦さんに肝臓を提供してくれた」
「河原崎さんですか」
「あの方に懐いていた子で」
のぞみにこのことを話した。
「ベベっていいます、雄です」
「野良犬ですか」
「はい、そうです」
「それなら」
野良犬ならとだ、のぞみは看護士に話した。
「退院したらあの子引き取っていいですか?」
「はい、飼い主募集中でして」
「それなら。河原崎さんに懐いていた子なら」
自分に肝臓を提供してくれて救ってくれた人との縁を感じての言葉だ。
「それなら縁ですね」
「だからですか」
「はい、そう思いました」
「ワン?」
ベベもだった、のぞみに気付いて。
そっと彼女のところに来てだ、自然な感じで。
彼女の足元に座って尻尾を横に振った、へっへhっへと上機嫌な感じも見せる。のぞみは彼の頭や背中を撫でたがベベは嬉しそうだった。
のぞみはその彼を見つつ看護士に話した。
「退院する時が楽しみです」
「この子とですね」
「一緒に暮らします、お父さんとお母さんも犬を飼いたいと言っていましたし」
このことも話すのだった。
「それで」
「実は河原崎さんもこの子の飼い主が見付かることを願っていました」
「私は河原崎さんに助けてもらいました」
「それならですか」
「私はこの子を助けますね」
「そうされますか」
「はい、是非」
笑顔で言ってだ、のぞみは退院すると。
ベベを引き取って自分の家に連れて行った、そして家でベベに笑顔で言った。
「これから幸せになろうね」
「ワン」
ベベはのぞみに奇麗な目で応えた、ベベはこの時からのぞみの家族となり幸せに過ごした。河崎が願っていたことは実現された。死を前にした老人のそれは彼が助けた女性によって適えられたのだった。
お爺さんがいなくなっても 完
2020・3・27
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