逆さ磔の悪魔
シークレットボトム
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拳を振り抜こうとして、横から握り拳を掴まれてそのまま抑えられた。
自分の握り拳を掴む手を見れば、そこにいるのは自分と同じくらいの背丈の白い髪に紅い瞳の少女。
掴む手を振り払おうとしても、ミシリと音を立てて握られている。
「いくら元帥の秘書艦でも、赤の他人に自分の提督をクズ呼ばわりされたら、さすがに苛立つわ」
「赤の他人?よく言うじゃない。アンタ達のその面の皮、どんだけ厚いのか剥いで確かめてもいいかしら?」
「へぇ、この右腕一本でやろうっての?今、アンタの右腕は文字通りに私の手中に握られてるくせに、吠えるじゃないの」
「腕一本の差くらいで調子に乗るんじゃないわよ」
霞が肩に掛けていたストールとカーディガンがずり落ちる。
下の服には、左腕の袖は通されているハズの腕がなく、からっぽの袖がたなびく根元、彼女の左肩から先はあるハズの腕がなかった。
「叢雲、そのくらいで。彼女もわかっているし、それでも割り切れない余りが、自分の胸の内だけではどうしてもどうしようもないのだ」
「ずいぶんと優しいのね」
叢雲が手を離したのと同時に振り払うように手を引き、霞は一歩下がる。
苛立ち歯噛みしているのが、露骨に口許を歪めていて丸わかりだ。
霞は最初から隠すつもりすらないのだろう。
「『蒼征』、貴方を私が召喚した覚えもなければ、貴方がここに来るアポイントメントもない。いったい、なんの理由があってここにいる。理由の如何では」
霞が肩から落としたカーディガンを三条河原は後ろからかけ直し、ストールをそっと巻いてやりながら壬生森を睨む。
「私がただ、ふらっと遊びに来たとでも?キッチンのひとつもないようなところに誰が好き好んで来るものかよ。どうせならこんな飴のひとつもなさそうなオフィスより食い物のひとつも出てくる酒場のほうに行きたいね」
壬生森はそう言って肩を竦める。
暗に自身の立ち位置を述べている壬生森に、三条河原は苛立った。
「ブルネイ寄りの立場のアピールはけっこう。アンタの行動は支離滅裂だ。表向きにはリバースド・ナインの件でブルネイを擁護しておきながら、紙爆弾をあちこちに飛ばして主だった全省庁から海軍への書類の絨毯爆撃を仕掛け、海軍内にもそれをブルネイに押し付けさせる流れを作った。普段なら内務省預かりから防衛省経由で海軍に届くものまで全て直送になっている辺り、内務省も同調しているのは明らかだ。アンタ、どこに立っているんだ?」
「私の立つ場所はいつも、私の場所だ。私がやっていることは、出来るだけ多くの者が溜飲を下げるだろう妥協点を提案しただけに過ぎない」
「それで、こことブルネイを書類で溺死させるのが妥協点だったと?」
「この程度で溺死するものかよ。内務省の一部署程度の事務処理能力があ
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