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私には要も急もある 羽田涼子VS新型ウイルス感染症
私には要も急もある 羽田涼子VS新型ウイルス感染症
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あ、いや、大丈夫です。最近、便秘気味だし。あ、ごめんなさい。下品ですね。とにかく、小さい子もお連れですし、必要でしょう。本当に私は平気ですんで」
「それなら、お言葉に甘えて」
女性にロールのパックを手渡す。
「ありがとう!」と女の子がお礼を言う。
「どういたしまして」
レジへ向かう二人を見送った私は食料品のコーナーに行った。日持ちしそうなものをあれこれと選んでカゴへ入れる。お菓子も買おうと売り場を覗くと、ある物が目に入った。カンザスドーナツだった。ほぼ誰も手をつけていないようで、山積みになっている。昨年末もここで買って結衣の家に行ったことを思い出す。結局、いまだに食べていない。彼女はもう食べたのだろうか。結衣の家にまだ余っている可能性も考えつつ、カンザスドーナツの缶詰二つを手に取った。
店を出る際、入り口近くにいた、責任者であろうネクタイ姿の男性に謝罪した。
「気にしないでください。こういう状況ですから。仕方ないですよ」
「そんな気はなかったんですけど、なぜかあのときは……」
「お客さんは良い方です。さっき、見てしまったんですが、子供連れの女性に譲ってくださったでしょう」
「見られてたんですね、恥ずかしい」
「すみません」
二人して苦笑いした。
「それじゃあ、私はこれで。がんばってください」
「お客さんもお気をつけて」
男性に会釈をして、私は外へ出て行った。
「ボロボロじゃない! どうしたの?」
「任務失敗しました……」
「お、おう。とにかく入りなよ」
「うん」
汚れたスニーカーを脱いで、結衣の部屋に上がった。買って来た食料品を床に置いたと同時にどっと疲労が襲いかかり、壁にもたれて座り込んだ。向かいの姿見に映る自分の姿はさながら負傷兵だ。
「何があったの?」と結衣が不安気な表情で聞いてくる。
「いや、ちょっと。マラソンの集団にぶつかっちゃって」
「さすがにそのウソはないわー。しかも、このご時世に」と結衣は苦笑しつつツッコミを入れた。よかった。やっぱり、この子はタフだ。とはいえ、髪はボサボサでメイクなどしておらず、大事にしていたはずの<F8>パーカーには醤油か何かをこぼしたシミが残っている。部屋も散らかり放題だ。
「変に誤魔化すのもあれだから正直に言うね。スーパーでトイレットペーパーとティッシュが入荷するところだったから挑戦したんだけど、お客さんが殺到してもみくちゃにされちゃった」
「私のためにそこまでしてくれたの?」
「気にしないでいいから。結局、手に入らなかったし」
現場の醜い混乱のことは黙っていた。結衣に心配をかけたくないことが一番の理由だが、自分が晒した醜態を知られたくなかったことも私の口をつぐませた。
「そこまでしてくれたことが嬉し
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