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私には要も急もある 羽田涼子VS新型ウイルス感染症
私には要も急もある 羽田涼子VS新型ウイルス感染症
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責任者と思われるネクタイ姿の男性は困り顔だ。周囲にいる店員さんたちは、棚に手を伸ばそうとする客たちを押し戻すように制する。一触即発。張り詰めた空気。恐い。マスクならまだわかるけど、お尻を拭いたり、鼻をかんだりするものだよ? おかしいよ。もちろん自分だってそれを求めてやって来た一人だけど……。

「早く売れよ!」と誰かが叫ぶ。その声をきっかけに他の客たちも大声を出し始める。中には店員さんたちに向かって聞くに堪えない言葉を浴びせる人もいる。ふと、大学のゼミで一緒だった渡瀬君のことを思い出した。彼は確かドラッグストアでバイトをしていると言っていた。彼も今頃、このような状況で苦闘中なのかもしれない。

 口火を切ったのは紫色の髪をした中年女性だった。彼女は棚の前に立つ店員さんたちを押しのけてトイレットペーパーのパックを掴み出した。他の客も続けとばかりに殺到する。
「やめてください! 危ないですから!」と悲痛に訴える店員さんの声が空しく響いた。
 そのとき、私の中で何かのスイッチが入った。詰め掛ける他の客らと同じように、自分も渦の中に飛び込んだ。周囲の客を掻き分けて棚へ突き進む。私の頭にあったのは結衣のことだけ。独りで苦しむ彼女を少しでも安心させたい。ジョーカーみたいになってしまいそうなあの子を、ほんのちょっとの安心で救えるかもしれないんだ。あなたたちとは目的が違う。私にはもっと大事な理由がある。だからお願い、私に買わせて。

 私はうずくまっていた。髪留めはどこかへ飛ばされ、誰かに強く引っ張られたのだろう、ダウンジャケットの袖が破れている。棚はすべて空で、客たちは皆、レジへ向かっていた。私は両手でトイレットペーパーの六ロール入りパックを大事に抱えていた。必死になって手に入れたトイレットペーパー。「何やってるんだろう」と小さくつぶやいた。
 立ち上がって横を見ると、片付けをする店員さんに、小学校低学年くらいの女の子を連れた女性が話しかけていた。

「もう売り切れてしまいました。申し訳ありません」
「そうですか、残念です」
「せっかく来ていただいたのに、すみません」
「気にしないでください」

 あの親子らしき二人もどこかで情報を得たのだろうか。遅かったようだ。いや、よかったのかもしれない。子供にさっきの大人たちの醜態を見せなくて済んだのだから。

「ここにもなかった!」となんだか楽しそうに両手を挙げる女の子。
「また他を探しに行こうね」
「どこかにあるといいな!」

 私の前を通り過ぎ、出口へ向かおうとする二人を見て胸が痛んだ。一瞬迷ったが、決心して女性に声をかけた。

「あの、すみません」
「はい?」
「えっと、よかったらこれ、お譲りします」
「そんな、いいんですよ。あなたも苦労して手に入れたようですし」
「あ
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