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私には要も急もある 羽田涼子VS新型ウイルス感染症
私には要も急もある 羽田涼子VS新型ウイルス感染症
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の気持ちがなんとなくわかるかもって言ったら、あんたは『まったく理解できない。メソメソしすぎ。世の中恨みすぎ』って一蹴したんだよ。カチンときたから記憶してる」
「それは……」
「いまの結衣はジョーカーと同じだよ。映画のジョーカーは好きだけど、病的なジョークを言うあんたは好きじゃない!」
結衣のことを<あんた>と呼ぶのは何年ぶりだろうか。中学の頃に大ゲンカして以来かもしれない。
「自分のことを要らないとか、そういうのはもうやめよ?」
結衣は何も答えず、私も黙っている。しばらくして、結衣が口を開いた。
「怒らせちゃったかな、菩薩の涼子を。謝るよ」
「こっちこそわめいちゃった。近所迷惑だったね。ところで、何も要らないって言ってたけど、食べ物は要るでしょ? 何か買って来ようか」
「迷惑じゃなければお願いしてもいい?」
「はい、はーい。トイレットペーパーとティッシュも調達してくるね」
「うん、健闘を祈る」
「任務に行ってまいります!」と言って私は通話を終了した。
家にはまだロールが四つはあったと思う。ティッシュは箱が軽かったからあと少しか。電車に乗る間、残りがどれだけあるのかを思い返した。早く結衣に届けたい。それでほんのわずかでも、彼女が安心してくれるなら。
「なにこれ……」
目の前の光景が信じられなかった。トイレの個室が水浸しになっていた。床に置いといたトイレットペーパーもグショグショで使い物にならない。管理人さんからの説明によると、上の階で水道管の漏れがあり、真下にあるこちらまで水が落ちてきたという。水漏れでダメになったカーペット等は弁償すると言ってくれたが、そんなものはどうだっていい。トイレットペーパーだけを返してほしかったが、それは言う気になれなかった。
私は走っていた。入手できそうな場所をネットで調べていると、なんと結衣のマンションからそう遠くない場所にある大型のドラッグストアで、棚に並べ始めているとのSNS投稿を見つけたのだ。夕方に並べることもあるのか。投稿は三十分前だ。最寄り駅から全速力で駆け出した。家のトイレットペーパーはダメになったし、まだ残りがあると思ったティッシュはもう空だった。店に入荷した数はわからないが、サイトで見た画像ではかなり広い店舗だったから期待できる。入荷に気づいた人が少なければまだチャンスはある。
店に着いたときは息が切れる寸前だった。求める物の場所は探すまでもなかった。奥の一角で騒ぎが起きていたのだ。状況はよく呑み込めないが、どうやら販売開始のタイミングを巡って店側と客の間で一悶着あり、それはいまも続いているようだ。棚には上から下まで何十というロールのパックやティッシュ箱が詰め込まれている。いまから列を作ったり、整理券を配るわけにもいかないのだろう、
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