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私には要も急もある 羽田涼子VS新型ウイルス感染症
私には要も急もある 羽田涼子VS新型ウイルス感染症
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る。
「発表によると、市内在住の二十代女性。海外渡航歴はなく、勤務先の映画館に六日まで勤務していたということです。なお、女性は軽症。映画館は感染が判明した翌日より臨時休館中と運営会社が発表しました。これで県内の感染者は五十七人になりました」
結衣が感染した。それを聞いたとき、立っていられなくなり、駅のホームでへたり込んだ。心配そうに周囲の人たちが駆け寄る。私は立ち上がり、改札を出てから、貯金も少ないのにタクシーで帰宅した。とても歩いて帰れる自信がなかった。
なぜ? どうして? 結衣がなんで? 理解が追いつかない。マスクをして、手洗いや消毒も欠かさないと言っていたのに。誰からどう感染したのか。
テーブルの上には卓上鏡がある。そこに写った私は片手を額に当てていた。自分も感染したのかと不安になったのだろう、考えるより先に手が動いていた。自己嫌悪に陥る。もしかしたら私がうつしたかもしれないじゃないか。それなのに、自分がうつされたかもしれないと先に疑ったのだ。最低だと思った。念のために検温したが、平熱だった。花粉症によるくしゃみ以外に自覚症状もない。それでも自分への嫌悪感はぬぐえなかった。
結衣は指定の医療機関に入院中だ。私は症状はないけれど、濃厚接触者として十四日間の自宅待機を要請され、指示に従っている。無職だから何も影響はない。トイレットペーパーは十分あるからもつだろうし、ティッシュがなくなっても代用できる。両親に心配をかけることは心苦しかったが、それ以上に辛いのは結衣とのやりとりだ。決められた時間しか許されないから、いつでもとはいかないが、連絡を取り合っている。彼女は謝罪の言葉を何度も口にした。
「ごめんね、本当にごめん」
「謝らなくていいよ。私は何ともないんだし、結衣の方こそ軽症でよかった」
「うん、ずっと隔離されてるだけだよ」
「ちゃんとご飯は食べてる? なんかお母さんみたいなこと言っちゃった」
私と同郷の結衣も両親からは遠く離れて暮らしている。
「免疫力をつけるために食べるのが仕事になってるよ。動いてないから食欲ないんだけどさ」
「早く元気になって。そうだ、『ワイルド・スピード』の新作やるんでしょ。退院したら一緒に見に行こう」
「あれはウイルスの影響で公開延期になったんだよ」
「……そうなんだ。なら、過去作でもいいから。私は変な番外編しか見てないんで、1、2を見て、3は飛ばして、4から8までをDVDで一気見しよう。ホームシアターでさ」
「二作目もヴィン・ディーゼルが出てないから見なくていいよ。あ、でもポール・ウォーカーは涼子は好きになりそう」
「よくわかんないけど、じゃあそのポール目当てで見るよ。ファンになったりして」
「その俳優、死んじゃったんだけどね、事故で……」
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