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私には要も急もある 羽田涼子VS新型ウイルス感染症
私には要も急もある 羽田涼子VS新型ウイルス感染症
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が面倒だけど」
「向こうではレモンが特産品なのかな。さっそく食べよ」と開封しようとした私を結衣が「待って」と制する。
「たぶん我々の経験上、ここで一つ食べると止まらなくなって食べ尽くしてしまう気がする」
「確かに。今夜は茜たちとご飯食べる約束だしね。小学生の頃から何度も同じ過ちを繰り返してるけど、いいかげんに過去から学ばないと」
「そうだよ、私はもう辞めちゃったけど、涼子は来年で大学卒業するんだし。ちゃんとした大人になりなさい。旅行業界は大変だって聞くぞ」と結衣が脅すように言う。
「はい、がんばります。カンザスドーナツはお預けってことで」
出掛けるまでの間、結衣と他愛のない会話で何気ない夕方を過ごした。
× × ×
「それって訴えてもいいんじゃないの」
「これはもうしょうがないよ。新卒だけの問題じゃなくて、社員さんも減らすみたいだし」
「まあ、そうかもしれないけどさ。私もバイト先の映画館が苦しい状態で、お客さんが隣り合わないように席を一つ空けて、チケットを売ってる。だからキャパの半分しか売れない。どっちみち、来てくれなくなってるから同じようなものだけどね」
今年に入ってから、新型のウイルス感染症が世界中で猛威を奮っている。日本も例外ではない。本日時点で国内の感染者数は七〇〇人を超え、亡くなった人は二十人以上もいる。国外では十四万人以上が感染し、五千人以上が命を落としたと報道されていた。普通の風邪に似た症状から始まるとされ、飛沫感染、接触感染によって感染すると考えられているらしい。ニュースで見聞きしただけだから、本当のことはよくわからない。私が実際に目で見て理解できているのは社会への影響だ。感染拡大の防止に向けた政府の要請もあり、休校や休業が相次いでいる。イベントは軒並み自粛。観光業をはじめとした多くの業種が経済的な打撃を受けた。私が内定をもらっていた旅行会社も連日のキャンセルと新規申込の激減により経営が逼迫、遂には内定を取り消されてしまった。大学の卒業式も中止となったものの、結衣が退学してからは面白くない大学生活だったから、それは特に何とも思わなかったが。
「にしても人減ったよね。このカフェもいつもは混んでて、座りにくいカウンター席しか案内されないのに、今日は四人掛けのテーブルを私ら二人で使っちゃってるし」と結衣が言う。私たちは土曜のランチタイムにも関わらず閑散としたカフェにいる。
「『不要不急の外出は控えて』って言うけど、基準がわかんないよね。私は年末でバイトを辞めたし、大学も卒業するし、そういう意味では一切外に出なくてもいいのかな。買い物くらいか」
「必要な物は買えてる? マスクもしてないし」
「うん。私の意識が低いのかもしれないけど、なんか別にいいかなって。結衣はちゃんとしてるよね」
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