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戦国異伝供書
第七十九話 初陣その十四

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「そこに布陣してじゃ」
「戸ノ本において」
「戦じゃ」
 元親は確かな声で言った、そしてだった。
 彼の言葉通りにだった、長曾我部家の軍勢も本山家の軍勢も動き。
 両軍は戸ノ本で激突した、だが。
 長曾我部家の多くの者は元親を見て言うのだった。
「殿でないのか」
「殿は今病とのことじゃが」
「しかし若殿とは」
「若殿の初陣とはな」
「よりによってこんな時に」
「この戦でなくともよかろうに」
「この戦は本山家との戦じゃ」
 長曾我部家にとって因縁の相手であることは兵達もわかっていることだった、それで彼等も口々に言うのだ。
「負ける訳にはいかぬ」
「それでもか」
「頼りにならぬ若殿がご出陣とは」
「姫若子様がのう」
「これは負けるか」
「勝てる筈がないわ」
「全くじゃ」
 こんなことを言い合っていた、そうしてこの戦は危ういと多くの者が思っていた。だが法螺貝が鳴り。
 戦がはじまった、するとだった。
 元親はすぐ近くに鳥達が乱れ飛ぶのを見て言った。
「あちらにわしが五十率いて向かう」
「あちらは敵がおりませぬ」
「それでもですか」
「あちらにですか」
「うむ、行ってじゃ」 
 そうしてというのだ。
「敵を倒してくる」
「あの、そちらはです」
「敵がおりませぬが」
「それでもですか」
「向かわれますか」
「敵はおる、だからじゃ」
 それ故にというのだ。
「今から行くのじゃ」
「左様ですか」
「そうされるのですか」
「あちらに行かれるのですか」
「そうする」
 こう言って実際にだった。
 元親は五十人ばかり率いてそちらに行った、最初は多くの者はそこには誰もいないと思っていたが。
 何とだ、そこには。
「何っ、敵がいたぞ」
「こちらに来ておる」
「まさかと思ったが」
「おったな、では今よりあの者達に突っ込み」
 そしてとだ、元親は驚く兵達に話した。
「そしてじゃ」
「そのうえで、ですか」
「退ける」
「そうしますか」
「敵はまさかと思っておる」
 ここに敵がいるとは思わずだ。
「ならば今すぐにじゃ」
「攻める」
「そうして突き崩し」
「そのうえで退けますか」
「そうする、では攻めるぞ」
 こう言ってだ、元親は兵を動かした。その動かし方もだ。
 敵をしてだ、こう言わしめるものだった。
「な、何だあの兵達は」
「急に出て来たが」
「随分動きがよいぞ」
「速くしかもまとまっておる」
「あの者達は何者じゃ」 
 驚くばかりだった、そうしてだった。
 元親は驚く彼等に対してさらに攻める、彼は初陣であったが初陣とは思えぬ采配を早速見せるのだった。


第七十九話   完


                 2019・12・24
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