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戦国異伝供書
第七十九話 初陣その七

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「遠いです」
「土佐は三方が山に囲まれておる」
「南は海で」
「四国の他の国に行くにも一苦労じゃ」
「そうした国ですな」
「そしてじゃ」
 それにというのだ。
「四国の他の国への行き来にも苦労する」
「そして四国から都までは」
「海を渡らねばならぬ」
「そうしたことを考えますと」
「この土佐から都はな」
「遠いですな」
「だから上洛を考えていてもな」
「天下は」
「都を手中に収めてもな」
 遠いそこまで達してもというのだ。
「やはりな」
「天下までは」
「そこまでは全く考えられぬ」
「上洛を果たし管領にですか」
「それでも過ぎたものに思える」
 自分にはとだ、元親は述べた。
「わしにとっては」
「そうなるとやはり天下は」
「わしは考えられぬ、だが」
「それでもですか」
「やはり天下には自分こそがと思っている御仁もいよう」
「そしてそれは」
「うむ、どうも甲斐の武田殿にな」
 元親はさらに言った。
「おそらくだが」
「どなたでしょうか」
「尾張の織田殿か」
「うつけとも呼ばれる」
「いや、話を聞くとな」
 元親は信長についてすぐに述べた、口調はいつも通り強いものではないがその目の光は確かなものだった。
「あの方は違う」
「うつけ殿ではない」
「あれはどうもな」
 こう弟に話した。
「傾いておられる」
「そうなのですか」
「そうした方でな」
 それでというのだ。
「うつけ殿ではない」
「そうなのですか」
「その政を見てみるとな」
「政ですか」
「そして戦ぶりもな」
 それもというのだ。
「見事な方じゃ」
「そういえば尾張は」
「聞くところによくとじゃな」
「はい、かなりよく治まっているとか」
「田畑も街も整いな」
「年貢は軽く悪人は成敗され」
 親貞はさらに話した。
「堤や橋、道も次々とよくなっていき」
「城も堀は深くなり壁や石垣は高くなりな」
「まるで別の国の様によくなっているとか」
「その政を聞きそして戦での鮮やかな勝ちを聞くとな」
「織田殿は、ですか」
「うつけ殿などではなくな」
「真逆の方ですか」
 親貞は兄に問うた。
「そうだというのですか」
「わしはそう思う」
「そうした御仁ですか」
「優れた家臣の方々も多いというしな」
 このこともあってというのだ。
「数年、十年と経たぬうちに巨大な家となられるのではないか」
「十年もですか」
「経たずにな」
 そのうえでというのだ、元親は信長についてさらに話した。
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