第六十七話 天空への塔
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「イブール様、ご報告がございます」
瘴気の漂う薄暗い空間の中で、ゲマは教祖イブールにそう告げた。
イブールは瞳を僅かに動かし、ゲマに視線を向ける。
「何用だ。言ってみろ」
「ーーついに天空の勇者が現れました」
ゲマのその言葉を耳にした瞬間、イブールは器用にもワニの面に驚愕を浮かべた。
「何だと! 勇者の血を引く女はこちらの手中にあるはずだ!」
「我々がグランバニアを襲撃する以前に既に勇者は生まれていたという事でしょうね」
ゲマのその声には動揺の色はない。ただ彼は事実を述べているだけに過ぎない。
「そんなことはわかってる! 何か手はないのか!」
「ご安心ください、教祖様。もう既に手は打っております」
ゲマは水晶玉を掲げる。それにはアベル達の姿が映っていた。
「奴らの進路から予想するにおそらくは彼奴等はあの塔へ向かうでしょう」
「……天空への塔か」
「ええ。ただあの塔は最早加護を失い、朽ち果てた魔物の巣窟。あそこに巣食っている魔物をより獰猛にしておきましたよ。何百体か、更に実験体を配置した上でね。万が一にもエルヘブンの民の力が通用する事などあり得ません」
光の教団が擁する魔物は、ゲマによって手を加えられている。彼は魔物の多くを改造という形で本来その種にはない特性を付与したり、精神を破綻させるほどにまで凶暴性を増幅させているのだ。
「なるほど。流石はゲマだ。この戦力の前にはいくら勇者と言えど勝てまいだろう。ーーところで、あの魔道士から奪った力についてはどうだ?」
8年前、ゲマはミレイから魔法の力の全てを剥奪している。
再びミレイは魔法の力を身につけたが、呪文の数も質も以前より劣っているのが現状である。
「ああ、それですか。確かに奪うことには成功しましたがーー」
「どうなったのだ?」
「それを与える事は出来ませんでした」
もし、ミレイの持つ魔法の力がそのまま光の教団の手に渡っていたら、それは凄まじい脅威になっていただろう。だが、現実はそうはならなかった。
「どうやらあの娘以外にはあの力は使えないらしくてね。他の魔物には無理でも、私ならあの娘の力を扱えると思ったのですが、私でも無理でした」
「お前ですら扱えなかったのか……。それで、その力はどうした?」
「仕方がなかったので、消しましたよ。魔力を宝珠の形にした上で、それを砕きました」
「確かに使えぬ以上は下手にあっても、力を取り戻される危険性があるからな……。しかし、あの娘は何者なのだ? お前にすら扱えぬ力を持つなど、それはもう人間であっていいはずがない」
ゲマは頷いて、
「それにあの娘の力は何やら形容しがたいのですが違和感を感じるのです。人間の魔力でありながら、しかし人間の魔力では感じられない何かを」
「だがあの娘の力はもう奪い去
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