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提督「……辞めたい」
第一話 提督の決断
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たのは彼女達なのだ。それに比べ、俺達人間はどうだろうか。いや、俺はどうだったんだろうか。出来る限りの事はしてきたつもりだ。しかし、彼女達の深く刻まれた傷を取り除けないでいる。

 こう言い出したらキリがない。だからこそ、俺は彼女達を解体出来ない。いや、したくない。

 例えその心の殆どが艦娘への憎悪に蝕んでしまっていても、俺の一番大事な心の根っこは生き続けている。それは人としての道義だ。感謝の心だ。そしてそんな感情たちも、彼女達にもあるはずなのだ。

「……何故ですか」

 表情は驚きに染まっていた。それはそうだろう。ここまで怪我をしておいて、身の危険を感じない人間が居るわけがない。やられる前にやる。それを戦いの中で散々実行してきた大和が、ここで対処をしない俺を、今どんな目で見ているのだろう。無能な提督だと。いや大和は優しいので、理由次第で怒ってくれるのかもしれない。

「俺は横須賀鎮守府に着任する前に元帥から、ある命令を仰せつかっていた」
「それは、一体?」
「横須賀鎮守府を救ってやってくれ。とな」
「……しかし!」
「ああ! わかってる……そうした結果がこの有り様だ」
「ではどうして「俺がバカだからだ」……え?」
「あいつらは、心にそれはそれは深い傷を負っている。前任の独裁的な統制によって身も心も汚された」
「はい」
「勿論、お前だってそうだ」
「……はい」
「あいつらは来る日も来る日も俺なんかがされているような生温いものなんか目じゃないほどのことをされ続けた。俺は……ここ一年間ずっと耐え忍んで来て、あいつらの痛みを充分に理解できたんだ。いや、そう簡単に理解できたなんて言ってはいけない。それほどのことをあいつらは俺と同じように耐え忍んできたから、今日まで俺も耐え忍んだんだと思う」
「……」
「憎悪の対象が目の前に無抵抗で突然現れたとしたら、やり場のない怒りを俺もあいつらと同じようにしてぶつけていたと思う。……大和」
「……はい」
「……俺が憎いか?」
「提督」
「なんだ?」
「金輪際そのようなことを言葉にしないで下さい。流石に私も……怒ります」

 やはり大和は優しく、そして強い女性だと再確認した。

「……そうか。ごめん。でもこれだけは分かってほしい。大和」
「……はい」
「誰もがお前のように心を切り替えられるわけじゃないんだ。……お前のように強くなんかない」
「わ、私は弱いですよ……提督があの時来なければ、私の精神は今のように立ち直ってません」
「そうだ。俺もこれまで耐え忍んでこれたのはお前が居たお陰なんだ。お前が俺を精神的な支柱とするように、俺もお前を精神的な支柱とした。だからお前はここまで立ち直り、俺もここまで頑張ってこれた。だがあいつらの場合は違う。俺たちのように精神的な支柱
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