第一話 提督の決断
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「……辞めたい」
不意に、そんな弱音を病室のベッドの上で吐き出してしまった。
これまで色々なことを、見舞いに来てくれた一人の艦娘である大和と話し込んでいたが、俺は一通り会話が終わると、自然と口からそんな弱音を溢していたのだ。
何かにすがるような思いだった。会話が終わった後に訪れた静寂が、元々疲弊しきって極限まで心細くなった心をさらに寂しくさせたのだろうか。
「……提督」
俺の言葉に、大和が先程までの会話で淑やかに微笑んでいた表情を暗くさせる。
「……いや。ごめん。今のは、ちょっとした冗談って奴だ。……まだ二十二才という若輩者が、しかも提督というの立場にあるというのに、こんな弱音を吐くわけにはいかない。……だから、今の言葉は無かったことにしてくれ」
やはり病室に居ると心細くなるのだろう。普段はこんな弱音は吐かなかった筈なのに、こうして無意識に吐いてしまった。気も滅入っている。
普段の大和は俺のことを凄く思いやってくれる艦娘だ。だから、そんな俺のちっぽけな命令もいつも通り聞き入れ、俺が弱音を吐いたことを流してくれるだろう──そう思ったが、
「……無理です」
「──」
今日の──いや、今の大和はそうではなかった。
「……提督は私達艦娘の為に、もの凄く頑張ってくれました。あれほど前任によって落ちぶれていた横須賀鎮守府は、提督の尽力によって今はすっかり以前の横須賀鎮守府に復興を遂げています」
「……そうらしいな」
「なのに、なのに……私や武蔵、陸奥さん、翔鶴さん以外の艦娘達は……提督に酷い扱いをしました」
沸々と湧いてくる怒りを、その腹に抑え込んでいるかのような話し方で、静かに大和は語る。
「……誰も見向きもしませんでした。誰も提督の努力を認めませんでした……そして──」
「お、おい大和」
「──誰もが……提督の存在を否定しましたっ!」
これまで怒りを遂に抑えきれなくなったのだろうか。普段、俺の前ではこれほど声を荒らげることはなかった、あの淑やかな大和撫子のような子が、初めてその感情を露にした。
「提督は無茶しすぎですっ! 今まで無視を始めとした酷い扱いをされているにも関わらずにっ……提督は何も言わずに甘んじて受け続けています! しかも今回のような人間の力の数倍はある艦娘達から暴力を振るわれても執務を続け、挙げ句には懲りずに交友を持とうと近付いて……また暴力を受けて!」
「……すまん」
「しかも……今回に至っては暴力の範疇を超えて階段から突き落とされたんですよ!? 頭を打って死んでも……こうして助かった今でも後遺症があってもおかしくなかったんですよッ……!?」
「……」
「……私は。そして武蔵や陸奥さんや翔鶴さんだって今
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