街で出会った仮面の男
[1/3]
[8]前話 前書き [1]次 最後
誰が歌っているのか確かめたい、だが、部屋に戻れば遅すぎるかもしれない
と男は焦る気持ちを抑えながら正面のドアへと向かった、わずかにドアを押し
開けて伺うが、声は聞こえないことに少しがっかりした。
遅かったのか、体から力が抜けた、脱力感を感じたといったほうがいいだろ
う、その夜、男はなかなか寝付く事ができなかった。
ここは本当にパリの街なんだ、一度、海外旅行に行ったことがある、一人で
はない友人と一緒に、随分と昔のことだ。
初めての海外旅行は見るもの全てが珍しくて、楽しくて、あのときは英語な
んて殆どできなかった、電子辞書や翻訳機を買う余裕もなくて、だが、片言の
英語と手振り身振りでも会話というものは何とかなるものだ、ほら、こうして
買い物だってできたのだ。
抱えていた紙袋の中にはオレンジとリンゴが沢山、これでマーマレード、リ
ンゴのコンポートを作ろう、いや、ジャムもいいかもしれない。
店の人に声をかけるときは正直、緊張したが、山盛りの果物を指さして欲し
いと言いながら金貨を一枚出す、このお金はジュスティーナから貰ったものだ
けど、これから先、彼女にずっと面倒をかける訳にはいかない、一緒に住んで
いるけど彼女はモテルので恋人と家で過ごす事もあるだろう。
そうすると必然的にお邪魔虫だ。
何だか、前途多難だなあと思ってしまうのは、あちらの現実世界でも状況は
よくなかったからだ、不況で小さな町工場や中小企業が倒産寸前、見通しが立
たなくなってやっていけない事は良くあることだ。
無職になった途端に、この状況、もしかして運が良かったのかもしれない、
でも目が覚めたら部屋の中で孤独死などいうことになったら、あの漫画、オタ
ク男性の様な再起はごめんだ、まあ、死んだらそれまでなんだけど。
はっ、今の自分はネガティブな思考になってない、ポジティブに生きなけれ
ば、ふと、あのミュージカルのフレーズを思い出した、ポジテ
ィブーと思わず口から出てしまう。
この時ふと立ち止まって、あることに気づいた、気にせずに歩いていたのは
いいのだけど周りの建物、見たことがない気がする。
(もしかして、道を間違えた、いや)
後ろを振り返り、元来た道を引き返そうと思ったが、いや、大丈夫だろうと
思ったのは家を出て、それほど長く歩いたつもりはない、迷ったとしても歩い
ていればいずれ家にたどり着くだろうと思ったのだ、それに万が一の為に住所
を書いた紙をジュスティーナに渡されている、大丈夫だ。
そう思ってポケットからだした紙切れを見て絶句した。
英語、ではないのか、もしかしてフランス語だろうか、読めないというより
発音は、というか、これは綺麗な字、達筆なのだろうか。
これで大丈夫よと、目の前でスラスラと
[8]前話 前書き [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ