揺籃編
第十二話 エル・ファシルの奇跡(前)
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戦の伝達は完了しているな?」
「はっ」
「では始めよう。全艦、後退やめ。全艦前進。…砲撃戦用意。艦隊速度、第一戦速で敵に逆撃を加える。旗艦の発砲は待たなくてよい。敵A集団の先頭が有効射程に入り次第砲撃開始。全力斉射だ」
「了解しました。…全艦、砲撃戦用意!」
6月10日17:40 アスターテ星系、エル・ファシル警備艦隊第2分艦隊、旗艦アウストラ、
第2分艦隊司令部 セバスチャン・ドッジ
「旗艦艦長は、あの下士官達の言う事を真に受けるのですか!?」
声をあらげているのはウインズ中佐だ。彼も前回の戦いの恩恵を受けた一人だ。おこぼれ昇進にあずかった形なのが気に食わないらしい。その作戦を立案したのが下士官乗組員で、それが採用されたのも気に食わないらしい。司令部所属でないとはいえ、上位者に対する態度としては決して誉められんな。
「…充分真に受けておるよ。でなければ司令部にこのような話を持ち込む訳はなかろうて」
パークス准将。彼も前回の戦いで昇進した。旗艦艦長は本来大佐が務めるが、退役前ともあって昇進後もアウストラの指揮を執ることが許された。
「では、旗艦艦長もリンチ司令官が負けると仰るのですか?」
「負けるとは言っていない。だが、ウィンチェスター曹長の言う事も尤もだ、とは思わないかね?」
「…確かに尤もではあります。ですが、ジャムジードからの増援が来れば、充分に勝利は可能ではありませんか」
「…ダウニー司令、彼等に言っておらんのですか」
「…何の事です?司令」
…何の事だ?
「…ジャムジードからの増援は来ない。ジャムジード警備艦隊は出撃準備を整えていたが、国防委員会に止められたのだ。ジャムジードの艦隊兵力は千隻、もし更に帝国軍が増援を繰り出した場合、ジャムジードからの増援では焼け石に水の様なものだと。第1、第2艦隊を増援として派遣するので、それまで帝国軍を食い止めろ、との事だ」
「そんな…馬鹿な…いえ、失言でした、申し訳ありませんでした。司令のお言葉を疑う訳ではありませんが、それは事実なのでしょうか」
「事実だよ、ウインズ中佐。事実だからこそ、リンチ司令官は不利な状況にありながらも前哨宙域から後退されないのだ」
6月10日18:30 エル・ファシル、自由惑星同盟軍エル・ファシル基地、警備艦隊地上作戦室、
ヤン・ウェンリー
「私がですか?」
「それはそうだろう。私はただの作戦室長で、末席とはいえ君は司令部の作戦参謀ではないか。民間人に与えるイメージを考えてみれば君の方がいいイメージを与える事が出来ると思うがね」
「…そんなものでしょうか」
「そんなものだよ。それに作戦室は要請に従って民間船の徴用準備と民間人の乗艦の割り振りの計画を立てねばならんのだ。実際暇なのは君しかいないんだよ。
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