暁 〜小説投稿サイト〜
彼願白書
at sweet day
デアレスト・ドロップ
[5/5]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
に周囲を気にせず、そそくさと退散するのが一番だ。
そう思い、私は早足で廊下を抜け、階段を降り、寮舎から出た。
今日はなにも起こらなかった、と言い張るために。











ダメだった。
今、自分はもしかしたら、彼に惹かれてここにいるのかも知れない。
そんな疑問を持って、彼に接近してみた。
でも、そんなことはなかった。
どうしても、彼を思い出してしまう。
手が、いや、全身が止まった。
未だに、ワタシはあの時から歩き出せていないのだ。
どこにも行けないワタシは、ここですら置き去りなのだ。
いっそ、彼が襲ってきたら、拒まないつもりだった。
そんなことも、当然起きなかった。
わかりきっていたことだ。
ワタシを必要としているのは、彼だけだ。
彼が必要としているのは、戦艦としてのワタシだけだ。
それでも、求められているだけ、必要とされているだけ、まだマシなのだろう。
この、時の流れからはぐれた泊地さえ、ワタシを置き去りにしていくのだろうか。
きっと、ワタシは彼を忘れることはないのだろう。
それを、再認識させられた。
ベッドボードの小物入れを引き出して、中から指環を取り出す。

彼、気付かなかったな。

気付いたとしても、茶会の準備で邪魔にならないように外したのかくらいにしか思わないのだろうけど。
ルビーの指環を改めて薬指に嵌める。
やはり、これがあってこそのワタシかもしれない。
今となっては、なんの意味もないただの古びたルビーの指環。
これ以外の指環を嵌める日は、今のワタシにはきっと来ない。
それがいいのか、悪いのか、そんなことは未だにわからない。
ただ、ひとつだけ言える。
ワタシはきっと、こんなワタシを置いてくれるここを護るために、まだワタシでいるのだ。
だから、この指環はまだ、外せない。
ワタシはまだ、ワタシをやめられない。
[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ