暁 〜小説投稿サイト〜
戦闘携帯のラストリゾート
抉り取られた悲壮の意思
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僕の側で愛想良く笑っていればいいんだ」
「……うん、それが、お父様が私に期待することなら」

 ふざけるな、それが自分の側にいてほしい相手にかける言葉なの!
 思わず叫んだはずの言葉は、誰にも聞こえず霧散する。今見てるのは昔の幻だから当たり前だけど……理不尽すぎる、こんなの。
 キュービは男の子に手を引かれてどこかに歩いて行く。男の子の歩調に合わせて妙に早足で、歩き方もどこかぎこちなかった。
 
『この後、キュービはフロンティアの広告塔として一生懸命笑ったし、お客さんの前でバトルを披露した。それでお父様も喜んでくれるから、あの男の子は怖いけどこれでいいのって笑ってた。……あの日までは』

 なにも良くない。
 自分のやりたいこととは全然違うことで大切な人の役に立ったって、そんなの相手にとって都合がいいだけだよ。

『……貴女がフロンティアにいてキュービに出会ってくれたら、もっと自分のことを考えて動く人が側にいたら。こうはならなかったかもしれない。でもあのときは……あの子は、家族の役に立ちたくて。両親が誇ってくれるような人間になりたくて。お母さんに連絡する時間もなかなか作れないくらい忙しく働いたわ。だけど……』

 景色が巡る。アイドルのような服を着て笑顔を浮かべてお客さんを歓迎するキュービ。フロンティアを制覇したのか、豪華なトロフィーを手にして感じの悪い笑みを浮かべる男の子と、それを少し強ばった顔で褒めるキュービ。チャンピオンらしい立派な服をお父さんに、よく頑張っていると頭を撫でられはにかむキュービ。
 ずっと笑っているはずなのに、全然楽しそうじゃない。
 


「母さんとの別れは済んだか?」

 そして、次に映ったのは黒いスーツに身を包んだキュービと、チャンピオンらしい立派な燕尾服を着た彼女のお父さんが向かい合っていた。
 ……よく見たら喪服だ。お母さん、亡くなったんだ。
 少し成長したキュービは、ゆっくりと顔を上げる。 

「……お母様は、お父様の理想は正しいけど、私達のことも愛してくれてるって本気で言ってたのわ。なのに、どうして来てくれなかったの?」
「ダイバ君を見て、お前もわかっているだろう。チャンピオンの座とはただ仕事をこなすだけで守れるものではない。……お前の母さんのために使ってやれる時間は私には残されていないだけだ」

 キュービの目は真っ赤だった。赤と蒼のオッドアイが充血して、青色がかすんで見える。

「お父様は、お母様の葬式にも来なかった!! あなたが最後にお母様に会ったのは何年前!? 自分の理想のためなら愛した家族はどうなってもいいっていうの!?」

 癇癪と言う言葉すら通り越した、喉がひび割れそうな怒声だった。体の中の水分がなくなるまで泣きはらして、それでもなおやりきれない
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