暁 〜小説投稿サイト〜
魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
無印編
第21話:夢裂かれし者
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を歌い続けた。

 効果は覿面だった。見張りを掻い潜りながらだったので緊張感はあったが、それでも透の他者を思い遣っての歌は確かにクリスや子供達の心に届き恐怖や不安に泣き出す頻度は大幅に減っていった。
 毎日地獄のような日々であったが、彼が歌を歌っている間だけは恐怖や不安を忘れ穏やかな気持ちでいる事が出来た。

 だが…………それも長くは続かなかった。

 今から2年前の事、不運なことにその日何時もは誰も来ない筈の時間に、組織の人間が1人やって来たのだ。

 ただの気紛れかそれともサボりに来たのか。兎に角全く警戒していなかった時間にやって来たその男に透の歌を聞かれてしまった。それを聞いてその男が何を思ったのか、今になってはもう分からない。
 単純に煩わしく思ったのかそれとも暢気に歌っていると腹を立てたのか。

 次の瞬間その男は部屋に飛び込み、透を部屋の真ん中で押え付け馬乗りになると顔面を何発か殴り大人しくさせた。そして徐にナイフを取り出すと、それを透の喉元へ近づけたのだ。

 何をするつもりなのか? そんなこと、考えるまでもない。

 流石にそれは不味いと透は抵抗し、クリスも彼が何をされるのか察したのか発狂したように男を止めようと声を上げる。
 だが14歳という少年では荒事に慣れた男の力を振り払う事など出来る筈もなく、またクリスの声は全く聞き入れてもらえない。

 そうして遂に、男の凶刃が透の喉に食い込み傷一つなかった喉を、彼の夢と共にズタズタに切り裂いた。

 口と喉から止め処なく血を流し床に蹲る透。その姿にクリスが一際甲高い悲鳴を上げると、彼とクリスの目が合った。

 その瞬間、今にも死が間近に迫っていると言うのに透はクリスに向けて笑みを向けたのだ。

 自分は大丈夫、だから心配するな。

 溢れる血で喉が塞がれている中、彼はせめてクリスを少しでも安心させようと血を吐きながらも彼女に笑みを向けたのだ。
 血溜りに沈みながらも、自らに笑みを向ける透。その姿はクリスの脳裏に強烈に刻み付けられる。

 だがその光景も何時までも続かなかった。

 事を仕出かした張本人は、これで透はもう助からないと判断したのか彼を引き摺って部屋から出ていった。恐らく死体を処理する為の場所にでも連れていくのだろう。

 透が居なくなり、後には彼が流した大量の血だけが残された室内。

 残された子供たちは目の前で行われた残虐な行為に恐怖し涙を流し、クリスは絶望に放心状態となった。何も出来ず、目の前で心の支えであった少年を失ったのだ。彼女が感じる絶望は想像するに難くない。
 何しろある意味、彼女が原因でもあるのだ。

「あたしの……あたしの所為だ。ごめん…………ごめんね、透──!?」

 その日クリスは、
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