第二章
[8]前話
「この妖怪については」
「あの、まことにですか」
「それだけじゃ、ではかわすぞ」
「それでは」
若い者は南方の言葉に頷いてだった。
それで二人で前から来る妖怪の動きを見て間合いを離してかわすとだった。
妖怪はそのまま向こう側に進んでいった、若い者はあっさりと難を逃れたことに驚いていたが南方は彼に冷静に話した。
「手杵の形をしておったからな」
「だからですか」
「動けても方向転換はしにくい」
「だからですか」
「間合いを離してかわせばな」
それでというのだ。
「よいと思ってな」
「実際にしてみると」
「この通りじゃ」
やはりあっさりと言うのだった。
「難を逃れたな」
「はい、あっさりと」
「妖怪といえど恐れることはない」
「まずはよく見てですか」
「どうすればよいか考えてな」
そのうえでというのだ。
「落ち着いて対せばよいのじゃ」
「左様ですか」
「今の様にな、そしてな」
南方はさらに話した。
「事前にどういった妖怪化知っておるとな」
「尚更よいですか」
「対することは出来る、しかしこうした転バシは何故かな」
南方はこうも話した。
「この手杵だったり槌だったり茶釜だったり」
「子狸もいましたな」
「うむ、しかし道具が多いのは」
南方はこのことについても話した。
「床なり地面なりにうっかり落としていてな」
「つまづいて転ぶと」
「そうなるから付喪神になってもな」
「人を転ばすのか」
「そうやも知れぬな」
そうした妖怪についてこうも言うのだった。
「狸は悪戯にしてもな」
「ただのものであった時に人を転ばしていて」
「付喪神になってもな」
「そういうことですか」
「そうも思った、さて」
ここまで話してだ、南方は若い者に話した。
「ことは終わった、宿に戻ってな」
「休まれますか」
「また飲むか」
酒、それをというのだ。
「そうするか」
「まだ飲まれますか」
「酒が好きでな」
それでとだ、南方は若い者に答えた。
「だからな」
「左様ですか、ではお供します」
「そうしてくれるか」
「僕も好きですし。では」
「また飲むか」
南方は笑って話してだ、そしてだった。
実際に宿に帰るととまた若い者と共に飲んだ、妖怪と親しむ彼はそれ以上に酒に親しんでいた。そうしてだった。
妖怪についての話も多く書き残した、この話は彼に実際にあったかどうかわからない話だ。だが面白い話と思いここに紹介させてもらった。一人でも多くの人が読んでくれればそれ以上のことはない。
タテクシカエシ 完
２０２０・１・１３
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