前編
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読んでるように見せかけながら、それとなく相手の様子を見るんだ。」
『委員長』は、感心したようにうなずく。
「そうね。確かにテレビでやってる刑事ドラマなんかでは、新聞を広げて張り込みしてるわね。」
「僕らが新聞なんか広げてると、違和感があってかえって目立つだろ。こういう漫画雑誌の方が自然に見えるし、子供だと思って侮ってもらえる。」
「なるほど・・・あなた、なかなかやるわね。」
彼女は感嘆の声をもらした。案外、素直な性格のようだ。
僕は少し点を取り返したようないい気分になった。
「それに子供は二人でいた方が、かえって怪しまれないよ。一人だと目立って、何してるんだ?って思われるからね。」
「確かに、その通りだわ。」
その後、僕らは二人で雑誌を広げて読むふりをしながら小声で話を続けた。
「あいつ・・・ほんとうに強盗なの?」
「ニュースで見てない?お年寄りばかり狙った連続強盗。その主犯と思われる容疑者の大高よ。」
そのニュースは見た覚えがある。
「この間、おじいさんに大けがさせた奴か。」
「あのお年寄り、今も意識が戻ってないの。」
『委員長』が眉をひそめて答える。
「ひどいことするなあ。」
僕も怒りを込めて言った。お年寄りをターゲットにした犯罪は多いが、中でも力の弱い人に対する暴力というのは本当に卑劣な行為だ。
「許せないよね。」
『委員長』がそう言い、僕らは二人で顔を見合わせてうなずく。
「ね、もう一回携帯電話を貸してくれない? あいつが下りたら場所を通報しないと。」
「うん」と答えて僕はポケットに手をつっこみ、そしてそのまま固まった。
・・・無い・・・
(あれ?・・・さっき受け取って、それから確かに・・・)
「どうしたの?」
『委員長』怪訝な顔をした。
「落としたらしい。」
「・・・」
『委員長』は無言で目を見開いた。
「たぶん、階段を駆け上がるときだ。」
僕は言い訳をするように言葉を続けた。
返された携帯電話をしっかりポケットに入れていなかったのかもしれない。
階段を駆け上がるとき、慌てていたので落としたことにも気づかなかったのだろう。
自分の大失敗に頭をかかえたくなった。
「そう、しょうがないわね。それじゃあ次の手を考えましょう。」
『委員長』は、携帯電話の件ついてそれ以上何も言わず、手を顎にあてて考え込んだ。
失敗を責める気は無いようだ。懐が広い上に肝っ玉が据わっている。冷静で、逆境にもくじけないタチらしい。
僕はすっかり感心して、彼女のあだ名を『委員長』から『生徒会長』に格上げした。
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