第一章
[2]次話
クラシックは人間性をよくするか
オットー=クレンペラーは身長二メートルはあり如何にも学者然とした顔立ちに髪型、口にはパイプがいつもありスーツがよく似合う男である。クラシックの指揮者でなければ医者でも弁護士でも学者でも通用する外見だ。
そして指揮者としても実に素晴らしい、優れた学識と教養も感じられる卓越した指揮は常に絶賛されていた。
だが彼の数少ない友人である名プロデューサーのウォルター=レッグは知人に対してこんなことを話した。
「私もどうしてだろうね」
「マエストロとご友人であることは」
「そう、オットーは最高の指揮者だがね」
それでもというのだ。
「その人間性はね」
「毒舌家ですね」
「かなりのね、しかもね」
「尊大で不遜で」
「しかも病的な女好きだから」
「とんでもない人ですね」
「全くだよ、しかも短気だしね」
この要素も持っているというのだ。
「ちょっとしたことですぐに火が点くからね」
「コンサートで一緒にいたバイオリニストに怒鳴ったそうで」
「うとうととしたらね」
「怒鳴られて」
「騒動になっていましたね」
「他にもかっとなって怒った話も多いしね」
この話だけでなく、というのだ。
「その逸話もあんまりだけれど」
「毒舌でもそうで」
「もう舌禍もね」
こちらもというのだ。
「どれだけあるか」
「わからない位ですね」
「自信があっても尊大でね」
「いつもふんぞり返っているイメージは」
「それだけじゃないね」
ただ尊大であるだけではないというのだ。
「毒舌がね」
「あの人にはつきますね」
「しかもだよ」
さらに悪いことにとだ、レッグは眼鏡をかけた細面の顔を困ったものにさせてそのうえで彼の知人にさらに話した。
「女性については」
「アメリカで性犯罪者と呼ばれたそうで」
「何かサナトリウムを抜け出してだね」
「そうしたお話もありますね」
「気に入った娘は強引に手を出すこともね」
「ありますね」
「不倫をして相手の人の旦那さんに殴られたこともあるよ」
そうしたこともあったというのだ。
「この時も騒ぎになったよ」
「騒ぎになってばかりですね」
「歩くトラブルメーカーだよ、彼はユダヤ系だけれど」
民族としてはそちらになつというのだ。
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