第一章
[2]次話
ウブ
奇妙な話であった。
その為その話を聞いた上杉謙信は一旦腕を組んだ、そしてだった。
自分にその話をした本庄繁長にこう問うた。
「もう一度聞いてもいいですが」
「殿がそう言われるなら」
本庄はこう謙信に答えた。
「それがしも」
「はい、蜘蛛ですね」
「随分と大きな」
「その姿をしていてですか」
「オギャーーオギャーーと子供の様に泣きまする」
本庄は謙信に話した。
「そうして現れ」
「そしてですね」
「道行く者に追いすがりその命を奪う」
「そうしたあやかしですが」
「佐渡に現れ」
金山があり上杉家にとっては重要な財政基盤ともなっている、この金山からの収益が越後の富と共に上杉家を支えているのだ。
「そしてです」
「民達を恐れさせていますが」
「その名をウブというのですね」
「はい」
本庄は謙信に答えた。
「左様です」
「そしてその退治をですね」
「どうすべきかですが」
「それが気になりますが」
「ではです」
謙信は本庄に落ち着いた顔で答えた。
「樋口を向かわせましょう」
「あの者をですか」
「はい、まだ若いですが」
「切れ者で武芸もあり」
「かつ教養も勇気も備えているので」
だからだというのだ。
「あやかしが相手でもです」
「問題はないですか」
「ですから佐渡にです」
「樋口を向かわせますか」
「そうしましょう」
こう話してだった、そのうえで。
謙信は実際に樋口与六、先日元服して兼続という諱を与えられた若武者を佐渡に送った。背はやや高めで引き締まった見事な体格をしている。
面長で顎の先は四角く髷の形もいい。小さめの目には強い光があり顔立ちは引き締まり強い知性を感じさせる。
その彼が供の者を連れて佐渡に入った、供の者は佐渡に着くとすぐにこんなことを言った。
「いや、やっとですな」
「島に着いたというのだな」
「越後から随分ありますな」
「しかも海は波高くな」
「荒れていて。それがし船酔いはせぬ方ですが」
「普段の元気さがなくなっておったな」
「あそこまで揺れますと」
どうにもとだ、供の者は兼続に話した。
「流石に」
「左様か、しかしな」
「この度のことはですか」
「わしが解決する、お主はな」
「何をすればよいですか」
「わしと共にいてくれ」
こう言うのだった。
「一人でいるより二人じゃ」
「お供するだけでよいですか」
「一人だとむしろ賊が厄介じゃ」
「賊に襲われますか」
「そうじゃ、賊は弱い者を徒党で襲う」
「一人の者もですな」
「そうじゃ、しかし二人ならな」
一人でいるよりはというのだ。
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