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戦国異伝供書
第七十七話 諱その三

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「当家は天下にな」
「それはですか」
「一切じゃ」
「望まれぬ」
「近江の北だけでよい」
「左様ですか」
「うむ、しかしな」
 新九郎は使者にさらに言った。
「当家を見込んで盟約をというなら」
「それならですか」
「是非にじゃ」
「盟約を結びたいですか」
「織田殿にそうお伝えしてくれるか」
「喜んで」
 使者は新九郎に笑顔で答えた。
「さすれば」
「その様にな、そして」
 新九郎も笑顔だった、そのうえで使者にさらに話した。
「わしは実は織田殿は尾張一国で終わらぬと見ておる」
「といいますと」
「これからすぐに伊勢と志摩を手に入れられ」
 尾張のすぐ西のこの二国をというのだ。
「そして美濃も手に入れられ」
「ははは、そう言われますか」
「して上洛され天下も」
 それすらもというのだ。
「そう見ておりまする」
「さて、それは」
 使者も織田家の重臣だ、その為織田家の動きのことは把握している、だがそれは隠してそのうえで言うのだた。
「どうでしょうか」
「左様ですか、ですがそれがしはです」
 新九郎も使者の態度はこうした時は当然と思いそれではと頷き流してそのうえで使者にさらに話した。
「織田家は大きくなるとです」
「思われてですか」
「はい」
 それ故にというのです。
「是非です」
「当家と盟約をですな」
「結ばせて頂きます」
「さすれば、では」
 使者はさらに言ってきた。
「市様とのご婚姻を」
「そちらもですな」
「どうか」
 新九郎に恭しく述べた。
「宜しくお願い致します」
「それでは」
 新九郎はこのことにも快諾した、こうしてだった。
 浅井家は織田家と盟約を結びかつ新九郎は信長の妹である市を妻に迎えることになった、そしてこの縁からだった。
「そうか、諱がか」
「決まりました」
 父にこのことを話した。
「この度」
「その諱はどういったものじゃ」
「弾正殿から頂きました」
「そなたの妻の兄君つまりそなたの義兄からか」
「あの方の長の字を頂き」
 そしてというのだ。
「長政となりました」
「そうか、よい名じゃな」 
 久政は我が子の話を聞いて微笑んで述べた。
「実に」
「そう言って頂けますか」
「うむ、ではこれからはじゃな」
「織田家と共にです」
「生きていくか」
「そうしていきます」
「では朝倉殿とはどうしていく」
「朝倉殿ともです」
 この家ともとだ、長政は久政に答えた。
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