第七十七話 諱その一
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第七十七話 諱
六角家との戦が終わると新九郎はすぐに父久政を琵琶湖の中にある小島から彼と共に閉じ込めていた彼の家臣達と共に小谷城に戻した。
そして父に深々と頭を垂れて詫びた。
「この度のことまことに」
「よい、どちらにしても家督はそなたが元服した時に譲るつもりであった」
久政は己に必死に詫びる我が子を咎めることなく告げた。
「ならば浅井家の主はそなたでな」
「主がしたことだからですか」
「よい、しかし見事にじゃな」
「六角家を破り」
「そしてじゃな」
「当家は再びです」
祖父、久政から見れば父である亮政の時以来にというのだ。
「独り立ちが出来ました」
「そうであるな」
「そして今後は」
「お主がじゃな」
「浅井家を栄えさせます」
「頼むぞ、ではわしは隠居してな」
そのうえでとだ、久政は我が子に穏健な声で話した。
「静かにしておる」
「そうして下さいますか」
「全てはお主に任せる」
家と領地そして民達のことはというのだ。
「よいな」
「それでは」
こうして新九郎は無事に父との和解を果たした。もっと言えば父は最初から怒ってはいなかったのだが。
そのうえで政を進めていくがその中でだった。
新九郎は家臣達に言われた、その言われることはというと。
「諱か」
「どうされますか」
「やはり諱がないとです」
「武士としてよくありませぬ」
「ですから」
「そろそろ」
「そう言うが」
しかしという口調でだった、新九郎は彼等に答えた。
「果たしてじゃ」
「それを授けて下さる方がですか」
「おられるか」
「そのことがですか」
「やはり問題ですか」
「うむ」
その通りだというのだ。
「どなたかおられればよいが」
「では」
海北が言ってきた。
「朝倉殿にです」
「お願いするか」
「そうされては、いえ」
「わかるな」
「はい、朝倉殿とはですな」
「盟約は続けていってもな」
「当家は当家で、ですな」
「やっていきたいからな」
だからだというのだ。
「朝倉殿にはな」
「頼みたくないですか」
「ここはな」
「左様ですな」
「諱は重い」
そう使うことはないものだがというのだ。
「だからな」
「それで、ですな」
「朝倉殿にはな」
「頼みませぬな」
「決してな」
「そうされますな」
「うむ、しかしな」
「諱はですな」
「どうしてもな」
ここでだ、新九郎はまた言った。
「必要であるからな」
「だからですな」
「諱はですな」
「欲しい」
「そうなのですな」
「何とかな」
こう言ってだ、そしてだった。
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