ターン22 機械仕掛けの地底神
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つふと目を向けると、自分の椅子の上ですうすうと微かな寝息を立てて舟をこぐ赤い髪が目に映った。どうやら昨日は家にも帰らず、座ったまま眠りこけていたらしい。そう若いという年でもないのによくやるものだと呆れのこもった笑みを浮かべ、すぐにそんな自分も彼女と同い年だという現実を思い返してその笑みに自嘲の色が混じる。とりあえずの気休めとして先ほどまで自分が使っていた毛布を雑に被せておき、起こさないように静かに外に出た。
「……さて」
朝焼けの光に目を細め、取り出したのは1枚の紙。先日巴から去り際に渡された、彼の連絡先である。しばしそれを眺めたのち、おもむろに携帯電話を取り出した。
それからまた、数時間。おそらく外では、もう日が天頂に来ているような時間だろう。今日は空気も乾燥しており、爽やかな晴れの空が広がっているはずだ……そんなことを考えながら、それとは真逆の湿った空気と薄暗闇の支配する陰鬱で狭い空間に足音が響く。視界の端で慌てて逃げていくのは、丸々太ったネズミだろうか。
彼女の現在地点は、地下。近場のマンホールを開けて潜り込んだ、幸運にも下水ではなく上水道の内部である。規則的に配置されぼんやりとした光を放つ非常灯と、それよりも強烈な光の筋を描く手にした懐中電灯の明かりを頼りに進みながら、複雑で気が滅入るような道を延々と歩く。
「そろそろか?」
小さく囁いたそんな独り言を聞きつけていたかのように、前方からかすかな駆動音と共に何かが近づいてくる気配がした。人間大の「それ」が、鋭く向けられた懐中電灯に照らされて金属特有の光沢を放つ。一見すると、ごくありふれた清掃用ロボット。半自動でこの上水道の中を延々動き回っては老朽化の有無を確認したり簡単な掃除を行う、都市整備用マシンでしかない。
しかし、彼女が探していたこの一台のみは違う。人間の存在を感知してカメラを向けつつ巡回を止めたそれに映るよう自らのデュエルディスクを起動させると、そこに焦点を合わせたロボットが内部で何らかの処理を始めた。それまでの代わり映えしない風景での単独行動がよほど退屈だったのか、聞くものなどないと知りつつも無意識に声が出る。
「その様子だと、巴の奴も嘘はつかなかったようだな」
この清掃用ロボ自体は、町の地下を何台も手分けして巡回している何の変哲もない機械に過ぎない。しかし彼女が前にする、この1台。これだけが、清掃会社の所属ではない。これはかつて巴が「BV」のどさくさに紛れて手に入れた同型のものを改造して密かにこの町の地下に紛れ込ませた……そして今なお彼らの活動における抜け道の確保や敵対する侵入者の察知に使われる、上下水道全てを掌握するための監視システムの一環である。
実は、ゆうべ彼女が糸巻に1日でこの町に網を張ると豪語した理由がここにある。無論その時
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