暁 〜小説投稿サイト〜
遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
ターン22 機械仕掛けの地底神
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 叫びたいだけ叫んだことでようやく少し頭の冷えた糸巻が自らのオフィスに戻ると、朝から別行動していた鼓は先に帰ってきており、一息つこうというのか丁度コーヒーを淹れているところだった。挨拶もせずに戻ってきた旧友の顔を一目見て何かあったことを察し、無言で口をつける寸前だった湯気の立つカップを差し出してくる。

「……いや、アタシはいらん」

 存外頑固なところのある鼓は放っておくといつまでもその姿勢のまま無言の圧力をかけてくることは経験上理解しているのでしぶしぶ口を開いて丁重に断り、その裏ではそんな言葉を聞いて我ながら酷い声だ、と内心顔をしかめる。今の彼女の精神状態がそのまま反映された、不機嫌さを隠そうともしない子供じみた態度。

「ふむ、そうか」

 それだけで何か続けて問うでもなく、素直にカップを引っ込めて静かにすすり始める鼓。そこで一度引くあたり、お互いにこのあたりの空気はよくわかっている。そもそも、今回の新たな犠牲者である青木とロベルトは鼓にとっても元同僚なのだ。しばし無言のままにのんびりとその中身を飲み干し、再び口を開く。

「この町の担当はお前だ、事前に報告だけしておくぞ。明日、ここら一帯に網を張らせてもらう。陸路はもちろん空路や海路だろうと、この町の外に出るためには私の目に引っかかるようにな」

 さらりと言ってのけたことだが、それがどれほど難しいことかは糸巻もよく理解している。権限の問題もさることながら、家紋町は海に面した街である。町の出入り全てに目を通そうというのであれば車や電車、船といった通常の交通手段はもちろんのこと、彼女たちが相手する「BV」を利用しての水中型や飛行型、果ては地中に潜むモンスターを実体化しての侵入にまで対処の必要があるからだ。
 しかし鼓は、それをわずか一日で成し遂げるなどと言う。そんなこと可能なのか、などと無駄な質問はしない。鼓がやると言うならやるんだろう、それ以上疑問を抱かない程度には糸巻はこの旧友を信用している。そもそも彼女たちの仲と立場で、大言壮語を口にする理由などありはしない。言い出しっぺに押し付ける、と言い換えることもできる。

「そーかそーか、頑張ってくれ」

 いかにもやる気のない返事に気勢を削がれつつも、言質はとったぞと最後に釘をさすことだけは忘れない。そのまま今日はもう寝るとの言葉を最後にオフィスの奥、宿代を惜しんで泊まり込んでいる仮眠スペースへと引っ込んでいった。
 残された糸巻は1人になったオフィスでいつものように禁煙の張り紙を横目に煙草を引っ張り出しながら、なんでアタシはまだ起きてるんだろうとぼんやり自問した。
 最後までその答えは出なかったが、確かなことがひとつある。結局その日、鳥居が帰ってくることはなかった。
 朝。目を覚ました鼓がやや強張った体を伸ばしつ
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