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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十七話 護州軍の進撃
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。‥‥あるいは咆津をこのまま確保しますか?」

「するしかない、するしかないだろう。畜生、草浪の奴め、ご丁寧に吼津の正面に龍州軍が人を敷いているのだぞ!ここで退いたら守原が甞められる。
あの陣地戦すら無意味になるぞ、クソッ!」
 唸り声をあげる定康を眺めながら豊地もまた、草浪の行動を分析していた。
 独断で抑える程に価値を見出すのも分かる、龍州軍が防衛しているのが蔵原と吼津を南北に結ぶ街道だ。彼らの苦労を考えるのであれば防衛線の分散を防ぐ戦略的要衝を護州が抑えるだけで圧力が大いに減じられる。
 しかし本当にそれだけなのだろうか?草浪は守原英康の政治的参謀でもある。ただ龍州軍としての立場だけで動く男なのだろうか?英康閣下の牽制か、或いはもっと別の考えがあるのか。草浪は大殿様とも親しかった――大殿様の御身体について何かをつかみ、後を見据えているのかもしれない。
 ――いや、それも考えすぎか?あぁ俺も若殿さまに肩入れしすぎたかもしれないな。畜生、厄介事からは距離を取ってきたはずなのに。

 豊地はふん、と鼻を鳴らし、頼りない若殿さまに視線を送った。

「おい豊地。貴様の予定では一戦交えるのではなかったのか」
 龍州軍の合流を上手く使って避難民の士気を上げる、という意図もあった。避難民からの支持を固めれば定康個人の龍州軍への影響も無視できなくなる。

「とにかく、予定と違いますが吼津を抑えることは大きな意味を持ちます」

「”何”にとってだ」「様々な分野においてです」
 司令官と参謀長が視線を交わし、互いに目を逸らした。
「とはいえ守る土地が増えすぎると面倒だ、どうする」「資材は余裕があります。吼津でも築城を本格的に行いましょう」

 定康は掌をひらひらと振りながら言った。
「そうだ、本格的に腰を据える。それこそが問題だろうが、吼津は交通の要衝。東と南の双方を抑える必要がある。
だからこそ吼津を奪還するというのは見せ札(ブラフ)だった筈だ。はっ六芒郭を予定通りあそこに据えればよかったのだがな」
 豊地もそれはそうですがね、と黒茶を啜る。

 皇龍道だけではなく蔵原、葦川を連絡する南北を横断する街道もある。さらに龍虎湾があり、皇都や往時はアスローン、〈帝国〉との交易路線でもあった。
天龍自治領にある人間の小集落――現在は天龍政議堂で可決された難民支援条例によって、避難民を受け入れ、ちょっとした町になっている――とも当然ながら人の行き来はある。

「えぇですがそこまで無理をする必要もありません、南は蔵原、つまりは駒州軍の正面です。連中が南から部隊を出すのであれば駒州軍への備えが必要になります、龍州軍と連携すれば連絡線を脅かすこともできる。更に葦川にも西州軍が展開しておりますので蔵原は三方を囲まれることになります、
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