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或る皇国将校の回想録
第五部〈皇国〉軍の矜持
第七十七話 護州軍の進撃
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皇紀五百六十八年 十月十日 午前第十刻
吼津より西方約十五里 虎喉大橋前
護州軍派遣兵団 参謀長 豊地大佐


 護州軍の行動はユーリアの不意を突くことに成功した。前日、護州軍は司令部を設置していた堅津より西進し、半日もせずに龍虎湾へと行軍できる虎喉大橋に主力を展開し、大規模な野戦築城を開始していた。
 
「予定よりも早いな。あぁあの要塞の指揮を執っている育預が無能だとはいわないが保持できると思うか?」
 兵団司令官は守原定康少将、恐るべきことに初陣でありながら自らが音頭を取ってこの作戦を計画させ、実行にこぎつけた。
 しかしそれでも想定より五日ほど早い、新城直衛の無能ではなく〈帝国〉軍の予想以上の手際の良さと迷惑であるがそれ以上ではない六芒郭攻略に主力を投入するという果断さが原因であった。

「将兵を磨り潰せば十日程は――あぁですがしかし」
 参謀長の豊地大佐は軍監本部から引き抜かれた俊英である、そして政治的な策謀から距離をとる奇特な参謀である。
 定康とはさして親しくはなかった、つい先日までは。
「なんだ」「あの育預は北領で最後まで戦い抜いて脱出した一人です、何かしら既に腹案がある可能性もあります」

「手慣れている、と言いたいのか」

「少なくとも破滅と恐怖との付き合い方については。彼は龍口湾では本営に突入しているのです」

「破滅と恐怖、か。あぁ覚えておくとしよう」
 その言葉は皇都で彼に会った者であれば聞き間違えたのかと思うほどに真摯であった。 

「我々が直接指揮を執るのは銃兵二個旅団、騎兵一個旅団、砲兵一個旅団を主力とした部隊です、後詰めに近衛総軍がおりますが‥‥まぁ虎喉大橋の築城を続けさせる程度と考えておくべきでしょう」
 定康もうなずく、新編部隊は増えているが戦力化が整うのは遅くても冬だ。志願兵が増えているとは聞いている。その理由について定康も想像がつかないわけではない。
 護州鎮台の新品少尉だった際に匪賊の危機にさらされていた兵は献身的に働く傾向になると中隊長から教えられた。 
「例の新設部隊は?」「既に昨日の時点で動かしています」
「アレは金がかかった、おい叔父上に漏らしていないだろうな」
「若殿様の懐金で能う限り、という事でしたの遠慮なく。
あぁ独立部隊を弄り始めた、というのは御存知でしょうが仔細は我々の方で、こちらで複数の旅団を動かす、という方を前面に出しております」

 そして遠慮はなかった。定康はそれが気に入っていた。
「間違ってはいないが後で面倒になりそうだ。近衛はどうだ、使えないかやはり」

「元の質もそうですが、銃兵が問題です。後備部隊に新設部隊ばかり、ただ戦力としてはあてになりませんが工兵作業に少なからぬ兵が使えます」


 何故ここまで築城に固執
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